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<feed version="0.3" xml:lang="ja" xmlns="http://purl.org/atom/ns#" xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"><title>Kitchen Smoker*Novels*　</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/" /><modified>2012-04-01T01:44:06+09:00</modified><tagline>*＝ｺﾉ作品ﾊ性描写ｦ含ﾑ(R18)
</tagline><generator url="http://jugem.jp/">JUGEM</generator><entry><title>・scene　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=169" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=169</id><issued>2012-04-01T00:55:00+09:00</issued><modified>2012-03-31T16:10:34Z</modified><created>2012-03-31T15:55:00Z</created><summary>

　住人の多くが眠りに就いて久しい深い夜。
　昼間の喧噪とは打って変わり暗闇と静寂に包まれたベッドの上で、ぽっかりと目を覚ましたハボックは、ひどく喉の渇きを覚えてのろのろと上体を起こした。

　枕元のサイドテーブルに置かれてある水差しの中身が既に空で...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<br /><br />

　住人の多くが眠りに就いて久しい深い夜。<br />
　昼間の喧噪とは打って変わり暗闇と静寂に包まれたベッドの上で、ぽっかりと目を覚ましたハボックは、ひどく喉の渇きを覚えてのろのろと上体を起こした。<br /><br />

　枕元のサイドテーブルに置かれてある水差しの中身が既に空であることを彼は知っている。<br />
　何故なら、他でも無い彼が空にした本人だからだ。<br /><br />

　実はこれまでに幾度も目覚めては、発熱の為に多量の汗をかいてからからに干からびた躰を水分で潤していた。<br />
　三時間程前に起きた時に飲みきってしまい、一時間程前の目覚めでは水分補給より睡眠を選び、そうして今に至る。<br /><br />

　汗で湿気たシーツや寝間着が気持ち悪く、肌がしっとりと濡れている感覚が不快極まりなかった。<br />
　そんな訳が無いと理解している筈なのに、誰かの唇や舌が肌の上を這い回ったかのように感じてしまうのだ。<br /><br />

　それでなくとも最早この渇きを癒さぬことには、もう眠れそうにない。<br />
　―――となれば、水を汲みに行く以外の選択肢は無かった。<br /><br />

　未だ躰はふつふつと高い熱を発しており、怠さがあるのも否めないが、マスタングに拾われた時と比べれば大分と快復してきている感がある。<br /><br />

　第一、たかが水を汲むという単純な作業が全くできない迄に調子が悪くなったことなど生まれてこの方、一度たりとも無かったではないか。<br />
　何ら問題も無く、その程度のことはできる。<br /><br />

　自身にとって都合の良い判断を下したハボックは、熱の籠ったベッドから抜け出した。<br />
　些少躰がふらついても気にしない。<br />
　体調に関して何の根拠も無い愚かな自信をもって、水差しとグラスを取ろうと手をのばす。<br /><br />

　水差しの取っ手を攫みかけた時、不意に人の気配が扉越しに近付いて来るのが判った。<br /><br />

　途端にハボックの手は、本人の意思とは関係無いところで、びくりと動いて反応を示した。<br /><br />

　それだけで済んでいれば、その反応が怖れからきたものであるという事に気づかぬふりができたかもしれない。<br />
　そして情けないほどにびくついている、大嫌いな“弱い自分”が確かに心の中に棲みついているという事実と共に、彼は自分自身を誤魔化せたのだろう。<br /><br />

　だが、大きくぶれた指先が取っ手に引っ掛かり、結果として水差しはサイドテーブルから転げ落ち、それだけでは済まず、割れてしまった。<br /><br />

　がちゃん、という陶器が形を失う音が静かな部屋の中で大きく響き渡る。<br /><br />

　すぐさまノックなしに扉が開かれた。<br />
　扉の向こうから差し込んだ電燈の明かりが、薄暗いながらも寝室全体を照らし出す。<br /><br />

「どうした？」<br /><br />

　現れたマスタングの視点は、まずベッドの傍らで立ち竦んでいる少年を捉え、それから床へと移った。<br /><br />

「あぁ―――水差しか」<br /><br />

　割れた物が何だったのか瞬時に理解したマスタングが部屋の灯りをともし、ハボックの方へ歩み寄る。<br />
　互いに手が届く距離まで近付いた時、半歩にも満たない僅かな動きではあったが、確かに少年の躰が後ずさったのを彼は見逃さなかった。<br /><br />

　特にそれを指摘したりはせず、マスタングは陶器の破片を拾うべくしゃがみ込む。<br /><br />

「っ、すんません。<br />
　俺が拾います」<br /><br />

「いい。<br />
　座っていろ、病人」<br /><br />

　やっと気付いた様子で申し出たハボックに掌を向けて、行動を押し止める。<br /><br />

「･･････はい」<br /><br />

　命に大人しく従い、ベッドサイドに腰を下ろした彼を見届けると、マスタングは手早く大きな二、三の破片を拾い上げる。<br />
　細かく砕けていなかったのが幸いして、それだけで片付いてしまった。<br /><br />

「喉が渇いているんだろう？<br />
　持って来てやるから、大人しく待っていろ」<br /><br />

　そう言い残し、水差しの欠片を手に部屋から去る背中を見送ったハボックの角張っていた肩が下がる。<br />
　知らず知らずのうちに全身が固く張り詰めていたことに気が付き、舌打ちせずにはいられない。<br />
　不必要に怯えている自分が情けなくて、赦せなかった。<br /><br />

　いい加減にしろ！<br /><br />

　ハボックは己を叱咤した。<br /><br />

　未だ事態が何ら収束していないこの状況下で、いつまでも病人面も被害者面もしていられないのだ。<br />
　弱っている場合などではない。<br /><br />

　程なくして室内灯がつき、同時に近付いてきた足音に、いつの間にか俯いていた顔を上げた。<br />
　その気力が有る事に、他ならぬハボック本人が安堵する。<br /><br />

　大丈夫だ。<br /><br />

　何度もその言葉を心の中で繰り返した。<br /><br />

　―――その強がりが、たかがこんな物で崩されようとは。<br /><br />

　マスタングから差し出されたグラスを受け取り、ハボックは一息でその中身を飲み干した。<br /><br />

　水が喉を通っていく爽やかな感触は火照った躰を癒してくれる。<br />
　口内に残る味に気付いたのはその後だった。<br /><br />

「これ･･････、この味」<br /><br />

　覚えのある味だった。<br /><br />

　思いがけない反応を見せたハボックに、マスタングが味の正体を説く。<br /><br />

「レモン汁と砂糖を入れてある。<br />
　ただの水より水分が躰に浸透され易いやすくなるんだ」<br /><br />

「知ってる･･････。<br />
　昔、熱を出した時に作って来てくれた･･････」<br /><br />

　マスタングへの応えではない。<br />
　既にハボックの心は過去へ飛んでいて、それは限りなく独り言に近いものだった。<br /><br />

　浸透率がどうの比率がどうの、病人だというのに小難しい事を並べ立てながら、脱水症状防止に効果的だという水が入った水筒を得意気に差し出してきたのは―――。<br /><br />

　ぽとり。<br /><br />

　空になっていたグラスの中に、滴が一粒落ちた。<br /><br />

　ぽた、ぽた。<br /><br />

　グラスの縁に。<br />
　それを持つ手指に。<br /><br />

　突然の落涙に驚いて瞠目していたマスタングは、つい先刻のハボックの呟きから大よその事情を察すると、僅かに目を眇めた。<br /><br />

　アトリーとの間の事は、昔馴染みだという関係と監禁されていたという事実の他は詳細な説明を受けていないが、ハボックの躰に痕を残した者が誰であるのかは聞かずとも明白だ。<br />
　そして、この少し手を加えた水を昔、ハボックに与えたという人物が何者であるのかも、彼の涙によって予想は容易についた。<br /><br />

　確信は無い。<br />
　だが肩を震わせている彼に、それを得るために尋ねる気には到底ならなかった。<br /><br />

「･･････畜生」<br /><br />

　ハボックの身に、急にこのひと月余りの自分の身に起こった出来事の全てが、ずっしりと圧し掛かってきた。<br />

　熱に侵された脳は、そのストレスに耐え平静を保つ力を既に失っている。<br /><br />

　悔しい。<br /><br />

　悔しい。<br />
　悔しい。<br /><br />

　何故こんな目に合わなきゃならなかった？<br /><br />

「畜生！<br />
　ちくしょっ･･････」<br /><br />

　溢れ出てきた涙を止める術を、今のハボックは持ち合わせていなかった。<br /><br />

　されるがままだった非力な自分に、どうしようもない苛立ちがつのる。<br /><br />

　砕かれた矜持。<br />
　失われた強さ。<br /><br />

　残っているのは、弱くて幼い躰だけ。<br /><br />

「何で、なんだよ･･････っ。<br />
　ちくしょうっ」<br /><br />

　親友だった。<br />
　それを誇れるほどに尊敬していた。<br /><br />

　ずっとその関係は続いていくものと思っていた。<br /><br />

　なのに、こんな形で。<br /><br />

　―――よりによって、あんな形で。<br /><br />

　次々に溢れ出す涙がグラスや手指を濡らしていく。<br />
　その冷たさが火照った頬に心地好いことが気に入らない。<br /><br />

　マスタングは何も言わなかった。<br />
　黙したままハボックの手からグラスを取り上げ、傍らにあったブランケットを彼に向かって頭から被せてやる。<br /><br />

　泣き顔など見られたくないだろうという考えと、未だ発熱している躰に配慮してのことだ。<br /><br />

「･･････格好悪ぃ･･････」<br /><br />

　ずびっ、と洟を啜り上げながらぼやいた金髪を、マスタングはブランケット越しに撫でつけた。<br /><br />

「お前は子供なんだ。<br />
　今は、そういうことにしておけ」<br /><br />

　そうして再び乱雑に撫で始める手は子供の慰め方など知らない、ぎこちないものである。<br />
　けれども、慰めようとしているそれは、実際に肌で感じ取ることは叶わずとも、きっと温かいのだろうと思わせるに値するものだった。<br /><br />

　思いがけずマスタングの優しさに触れたことで、ハボックは自ら箍を外し存分に泣いた。<br /><br />

　それでも、矜持の残り滓を集めて。<br /><br />

　声だけは立てずに、泣いた。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />

]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=168" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=168</id><issued>2011-12-09T05:28:00+09:00</issued><modified>2012-03-09T15:55:10Z</modified><created>2011-12-08T20:28:00Z</created><summary>　夜の帳が完全に下りた頃。　玄関扉の鍵を開ける音が聞こえて、マスタングはホークアイか彼女に指示された主だった部下三人の内の誰かがやって来たのだろうと思った。　が、予想を裏切り現れたのは、普段中央に居る親友であった。
「よっ」
　いつも通りの挨拶を寄越し...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<p><br><br>　夜の帳が完全に下りた頃。<br>　玄関扉の鍵を開ける音が聞こえて、マスタングはホークアイか彼女に指示された主だった部下三人の内の誰かがやって来たのだろうと思った。<br>　が、予想を裏切り現れたのは、普段中央に居る親友であった。</p>
<p>「よっ」</p>
<p>　いつも通りの挨拶を寄越してきた髭面を室内へと促すべく、内開きの扉に躰を沿わせて通る隙間を与えてやる。<br>　すると素早く身を滑らせるようにして入室した背中に向かって、疑問を投げ掛けた。</p>
<p>「ヒューズ、何故おまえが」</p>
<p>「いやぁ、たまたまハボック少尉の捜索資料を持って来たら面白い展開になってるって聞いて、俺も仲間に入れてもらおうかと思ってな。</p>
<p>　それに、おまえ副官酷使し過ぎだぞ。<br>　ちったぁ休ませてやれよ」</p>
<p>　どうやらホークアイが来る手筈になっていたようだ。<br>　それを、彼女を慮ったヒューズが代役として名乗りを上げたらしい。</p>
<p>　ホークアイに多大な負担をかけている自覚はあったので、マスタングは苦虫を噛み潰したような顔で「解っている」とだけ返した。</p>
<p>「少尉の子供時代の写真もあるぞ」</p>
<p>「それは都合が良いな」</p>
<p>　リビングテーブルに向かい合わせに腰を落ち着けたところで、ヒューズは手持ちの鞄から茶色の大判の封筒を取り出し、マスタングに差し出した。<br>　それを掠め取るようにして奪い、マスタングが真っ先に目を通したのは件の写真である。</p>
<p>「あんまりにも失踪前後の情報が少なくて探しようが無かったもんで、徹底的に少尉の素性を洗ったついでだよ。<br>　<br>　―――で、どうなんだ？」</p>
<p>　写真に映し出されているのは、校舎を背景に並び立つ同年代の青少年数十名だ。<br>　その中の一番前列に彼が居た。<br>　<br>　優しそうに垂れた目尻と意志が固そうな眉が、他人に与える印象の均衡を上手く保っている、些か緊張した表情の少年。<br><br>　<br>「･･････あぁ。<br>　<br>　あぁ、そうだな。<br>　間違いない」</p>
<p>　それは確かに、自分自身がハボック少尉なのだと訴えた少年だ。<br>　<br>　彼の言葉を疑っていたわけではないが、だからと言って何ら確証も無く真に受けられる内容でもなかった。<br>　しかし今、マスタングが手にしている写真はまさしく、少年の言の真を証明してくれた。</p>
<p>「それ、幾つの時だと思う？」</p>
<p>「十一、二というところか。<br>　何でそんな事を訊く？」</p>
<p>「十五だぞ」</p>
<p>「―――まさか」</p>
<p>「アリシアに誓って嘘じゃねぇぞ。<br>　他の生徒と見比べてみろよ」</p>
<p>　ずっと狭い一点のみに集中させていた視界を広げたマスタングに、得心の表情が浮かぶ。<br>　彼を囲んでいる少年少女は皆、十五歳と聞かされても何ら違和感の無い面立ちであり、体格だった。</p>
<p>　そもそも、ヒューズが愛娘に誓って述べた言葉には万に一つも嘘など有り得ないのだが。<br>　<br>「人がどんなペースで成長するかなんて、解るもんじゃねぇなぁ」</p>
<p>　マスタングが瞠目し驚愕を隠せない様を見て、ヒューズは満足そうに笑った。<br>　互いに遠く離れた場所で一つの目的に向かうようになって久しく、親友の公的な取り澄ました顔には飽き飽きだったのだ。<br>　<br>　ましてや、これから苦言を呈するつもりなのだから。<br>　<br>「で、こっからが本題だ」</p>
<p>　その声音から真剣を感じ取ったマスタングが居住まいを正した。</p>
<p>「おまえ、これからどうする気だ？」</p>
<p>「ホークアイ中尉から、私が聞いた彼の事情は全部聞いているな？<br>　全面的に協力するつもりだ。<br>　そうなると、アトリーという人物の救出が第一だが、結局はハモンドの件も自ずとついてくるだろうな」</p>
<p>「そうじゃねぇよ。<br>　俺が言ってるのは、その後の事だ。</p>
<p>　ハボック少尉を懐に入れるつもりか、と訊いてる」</p>
<p>「あぁ、入れる。<br>　本人が了承すればな」</p>
<p>　マスタングの即答に、ヒューズは解り易く溜息を吐いた。</p>
<p>「･･････奴はやめておけ」</p>
<p>　親友の言葉にマスタングの目がす、と細められた。</p>
<p>「奴は極端しかないぞ。<br>　無二の部下になるか、著しい妨げになるか。<br>　ホークアイ中尉は何も言ってないだろうが、おそらく俺と同じ事を考えてるぞ。<br>　―――『ギャンブルは御免だ』ってな。<br>　<br>　彼女なら明確に間違いでない以上、おまえが決定だと告げれば従うさ。<br>　だが俺は違う。<br>　親友として、同志として言うぞ。<br>　<br>　しくじったら取り返しがつかなくなる賭け事はするな」</p>
<p>　ヒューズが口を閉ざすと、テーブルを挟んだ両者は暫し睨み合った。<br>　<br>　そこに怒りは無い。<br>　ただ、互いの腹を探り合う。<br>　相手の心情を見究めようとしている。</p>
<p>　やがて、今度はマスタングの方が溜息を吐いた。</p>
<p>「俺はな、ヒューズ。<br>　奴が俺に下ると言ったなら、賭けに負ける事は無いと思う。<br>　　<br>　奴はその気が無い相手に膝をつかない。<br>　その証拠が、たらい回しの履歴だ」</p>
<p>　通常有り得ない数の転任に、彼の頑固が示されている。</p>
<p>　ヒューズとてそれは想像できていた。<br>　大きく頷き、素直に認めてみせる。<br>　―――が、しかし。</p>
<p>「それはそうだろうよ。<br>　だが、そうじゃない。<br>　奴が望まなくとも、敵に回らなけりゃならなくなる場合があったとしたらどうなる？」</p>
<p>「そんな時があるとすれば、自分で自分を殺すさ。<br>　己のプライドに懸けて」</p>
<p>「どうして言い切れる」</p>
<p>「勘だ」</p>
<p>　何の臆面も無く、マスタングは言い放った。</p>
<p>　他一切の動きを止めて、ぱちくりと瞬きをしたヒューズが、堰を切ったように笑い出した。<br>　憮然としている親友の顔に気付いて漸く、哄笑をおさめる。</p>
<p>「確かに、こんな時のおまえの勘は不思議とはずれねぇからなぁ･･････」</p>
<p>　ちらり、と意味ありげにハボックが眠る部屋の扉へと視線をやった。<br>　そうしてから、言い負かされてしまった事に些少の悔しさを覚えつつ、ヒューズは片肘をついた手に頬を乗せる。</p>
<p>「ま、おまえがそこまで決めちまってるんだったら、もう何を言っても無駄だな」</p>
<p>「そういうことだ」</p>
<p>　悪びれも無く口角を上げ、マスタングは親友に向かって不敵な笑みを浮かべて寄越した。<br><br><br><br><br><br><br></p>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=167" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=167</id><issued>2011-09-19T23:39:00+09:00</issued><modified>2011-10-20T14:59:35Z</modified><created>2011-09-19T14:39:00Z</created><summary>　マスタングが借り受けているその部屋は確かに書庫という表現に足る所蔵量を誇っている。
　玄関扉を開くと機能的なリビングダイニングにテーブルセットが鎮座しているのがまず目に入るが、その片隅に視点を移すと、乱雑に積まれた書籍の山が幾つか見受けられる。　リビ...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P><BR><BR>　マスタングが借り受けているその部屋は確かに書庫という表現に足る所蔵量を誇っている。</P>
<P>　玄関扉を開くと機能的なリビングダイニングにテーブルセットが鎮座しているのがまず目に入るが、その片隅に視点を移すと、乱雑に積まれた書籍の山が幾つか見受けられる。<BR>　リビングを抜ければ二つの扉が並んでおり、その両部屋共に主に錬金術関連の本が詰まった数架の書棚が居座っている。<BR>　それぞれの部屋における違いとは、他に置かれている家具がベッドなのかライティングデスクなのか、それのみだ。</P>
<P>　マスタングは机のある方の部屋で、暇潰しに書籍を漁り、目を通していた。<BR>　厭くまでも、ハボック少尉だと名乗った少年が再び目覚めるまでの時間稼ぎのつもりであった。<BR>　が、元来研究者というものは並外れた集中力を持っており、しかも一点集中型が多く、マスタングも例外ではなかった。<BR>　つまるところ、いつの間にやら読み耽っていたのである。</P>
<P>　突然立った大きな物音に驚き、本を放り出してリビングに出てみれば、玄関扉が閉まるところだった。<BR>　その僅かな隙間に少年の背中を見出したマスタングは慌ててその背を追う。</P>
<P>「おい、待て！」</P>
<P>　声を掛けても何の反応も返って来ず、少年は止まらない。<BR>　<BR>　何故。<BR>　何処へ。<BR>　<BR>　追尾側の思考は疑問符で一杯だ。</P>
<P>「待て！」</P>
<P>　階段の踊り場で曲がる際、彼の走る速度が落ちた時に手を延ばしたが、惜しくも攫んだのは空気だった。<BR>　<BR>　駆け下りる後姿に外へ出る事に対する躊躇は微塵も見受けられない。<BR>　それどころか必死の渇望すら感じ取れる。<BR>　<BR>「こら、待たんか！」</P>
<P>　今の彼の立場で、ただ徒に人目に触れかねない場所へ出るのは愚行以外の何でもない。<BR>　だが、彼がその事を念頭に置いて行動しているようには到底見えない。<BR>　彼が忘我の状態であるのは明白だ。</P>
<P>　そうなってしまった少年の精神状態を思いやる前に、マスタングは数度の呼び掛けを無視された事への苛立ちに任せて行動した。</P>
<P>「だから『待て』と言っている！」</P>
<P>　容赦無い力を込めて背後から少年の肩を攫んだ。<BR>　<BR>　普段、冷静沈着な采配を下す焔の副司令官はその実、その二つ名に相応しい一面を有し、稀にそれを衆目に曝すような真似をする時があった。<BR>　それにしても、今回は彼の地位に相応しくないばかりではなく、分別ある大人としていただけない。<BR>　この場に彼の補佐官が居合わせていたならば窘めたことだろうが生憎、既に彼女は東方司令部に戻っており、現況を知るには遠すぎる場所に在る。</P>
<P>　華奢な肩を捕らえたマスタングの手は、その持ち主に振り向きざま叩き落とされた。<BR>　じんじんと痺れる手の甲にマスタングが意識を置いたのは束の間で、睨み付けてくる青い双眸へとすぐに移される。<BR>　<BR>　少年のぎらついた、きつい眼差しの奥で、小鳥のように震えている怯えを見つけたマスタングは、御蔭で冷静を欠いている自分自身に気付いた。<BR>　同時に少年の方も漸く、睨んでいる対象が敵ではないと判ったらしく、双眸を大きく見開きながら微かな声を洩らす。<BR>　<BR>　それから更に少年の口が紡いだ呟きに近い呼び掛けに、マスタングは応じなかった。<BR>　黙したまま彼の小さな躰を隠すべく背中に手を回して抱え込み、屋内へと迅速に、且つ優しく導く。<BR>　<BR>　少年が実は大人であろうがなかろうが、それを信じていようがいまいが、見掛けは年少者であるという事実は違わない。<BR>　加えて彼が受けた境遇を図らずも考慮に入れていた結果、マスタングは彼を大人として扱えず、厭くまでも慰めるべき子供として捉えていた。</P>
<P>　少年と共に階段を上り、表札を掲げていない部屋を慣れた手付きで開くと、抱えていた背中を室内へと軽く押し込む。<BR>　続いてマスタングが身を滑り込ませたところで、神妙な顔付きで振り返った少年と視線が合わさった。</P>
<P>　背筋を伸ばして仰ぎ見てくる彼が纏う雰囲気はとても深刻で、双眸は責めを請う真剣な光を宿している。<BR>　如何にも軍人らしい態度と眼前に在る幼い容貌は滑稽な程ちぐはぐだ。<BR>　そして、隠しきれていない虚勢が尚更にマスタングの嗤いを誘った。<BR>　<BR>　得た情報を踏まえて機微を読み取り、無能な上層部の人間を手玉に取る業に長けた焔の司令官としての彼は、確かにこの時ばかりは形を潜めていたのだ。　</P>
<P>　マスタングがうっかり洩らした失笑に、少年は不愉快を顕にした。<BR>　その表情を見て漸く、心身ともに深く傷付いている彼の心情を慮っても、もう遅いのだ。<BR>　ばつが悪そうに眉尻を下げ、困り顔になったからといって事態は好転などしてくれそうもない。</P>
<P>　それで、素直に謝罪を述べることにした。　</P>
<P>「･･････嗤って悪かった」</P>
<P>「謝らんでください。</P>
<P>　碌に事情も説明してないんだ、あんたからすれば俺は突拍子の無い事を言うただの<RUBY>子供<RT>ガキ</RT></RUBY>だ。<BR>　そりゃこんな小っさいのが軍人ぶってちゃあ笑っちまうでしょうよ」</P>
<P>　諦観の色が入り混じった嘲笑が浮かぶ。<BR>　ジャン・ハボックだと名乗った時に見せたものと同じで、自身を嘲笑っている。</P>
<P>　気に入らない。<BR>　<BR>　マスタングは少年の自嘲を見た途端に湧いてきた不快感を内に隠した。<BR>　彼にそのような表情をさせた元凶が自身にあると理解しているからだ。</P>
<P>「それでも俺は信じてもらうしかないんスよ。<BR>　じゃないと―――」</P>
<P>　途中で言葉を切ると、彼はあちらこちらに青の視線を泳がせる。<BR>　<BR>　続きに迷ったように。<BR>　吟味して選ぶように。<BR>　<BR>「救えねぇ」</P>
<P>　真直ぐに顔を上げて告げてきた彼の決意はその固さを彷彿とさせたが、何処か痛々しい印象もまたマスタングに与えた。<BR>　<BR>　アトリーとハボックの間に起こった事柄の経緯や、アトリーを助けると心するハボックの葛藤などマスタングには知る由も無い―――そもそも対象が誰なのかすら判っていないし、ダレン・アトリーという存在自体を知らない―――というのに、そのような印象を彼に抱かせたのは何なのだろう。<BR>　憤慨、悔恨、憐憫か、それとも他の何かなのか。<BR>　何にせよ、ハボックの内で燻り続けている感情である事に違いない。<BR>　<BR>「では、話せ。<BR>　まずはそれからだ」</P>
<P>　先を促すマスタングに、彼は大きく頷いた。　<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=166" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=166</id><issued>2011-08-02T23:08:00+09:00</issued><modified>2011-08-21T16:23:14Z</modified><created>2011-08-02T14:08:00Z</created><summary>　名を呼ぶ声が後ろから聞こえて振り返ると、そこには彼が立っていた。　近所に住んでいる一歳年上の、とても賢いけれど他人を莫迦にしたりしない、良く気が付く親切な少年だ。
　毎日の様に一緒に遊んで過ごしてきた。　今日もまた共に遊ぶのだと漠然と思って近寄ると、...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P><BR><BR>　名を呼ぶ声が後ろから聞こえて振り返ると、そこには彼が立っていた。<BR>　近所に住んでいる一歳年上の、とても賢いけれど他人を莫迦にしたりしない、良く気が付く親切な少年だ。</P>
<P>　毎日の様に一緒に遊んで過ごしてきた。<BR>　今日もまた共に遊ぶのだと漠然と思って近寄ると、いきなり彼の手がにゅ、とこちらへ向かって伸びてきて、荒々しく手頚を攫み取られた。</P>
<P>　何すんだ、と<RUBY>睨<RT>ね</RT></RUBY>めつけて驚いた。<BR>　いつの間にか彼が少年ではなく、成人男性になっていたのだ。</P>
<P>　でも、知っている。<BR>　この人物も彼であると。</P>
<P>　･･････何で判る？</P>
<P>　それが自身であろうと他人であろうと未来の姿などというものを知る術など無いのに、何故に確信しているのか。<BR>　己の思考でありながら訳が解らない。<BR>　<BR>　二人は一歳しか違わないにも関わらず、目の前に居る男が彼だと思うのは―――、そしてその考えに少しの疑問も抱かないのは、何故なのだろう。</P>
<P>　気付けば景色もまったく別のものへと、すっかり変わっていた。<BR>　彼といつも遊んでいる光と影のコントラストが鮮やかな緑の森の中ではなく、無機質な明かりが全体を冷たく照らし出している白い部屋だ。</P>
<P>　大人の彼に押し倒される衝撃と共に、背中に柔らかい感触が伝わる。<BR>　転瞬、彼の手が攫んでいたはずの手頚も、そして足頚までもが固く冷たい鉄の拘束具に因って捕らわれていた。</P>
<P align=left>　そしてやはり、どうしてか知っているのだ。<BR>　<BR>　これから自分の身に起こる事態を。<BR>　辛苦と苦難に彩られた未来と共に。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>
<CENTER>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊</CENTER><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>&nbsp; 搾り出したような苦悶の唸り声を発しながらハボックは目を開けた。<BR>　すぐさま焦燥も顕に辺りを見回し、彼の双眸が忙しなく眼窩の中を動き回る。<BR>　<BR>　ここは何処だ。 
<P></P>
<P>　室内は夕闇に沈んでいる。<BR>　薄暗い中、視線を流して周囲の様子を目を凝らしつつ確かめると、この一室が書棚と、そこから溢れて床に積み上げられた書籍に囲まれている部屋だと判った。<BR>　<BR>　目線と同じく真横に向けば、生温くなっている湿ったタオルが額からずり落ちる。<BR>　躰に纏わりつく衣服を煩わしく感じながら、同様に鬱陶しい、汗で張り付いた前髪を乱雑に掻き上げた。</P>
<P>　その時、視界の端でちらついている袖が見覚えの無い物だと気付いた。<BR>　知らぬ間に着替えさせられた証拠を目の当たりにして、苦渋の軟禁生活を想起してしまったハボックの背筋に冷たいものが走ると、途端に胸はざわめき、指先が震えた。<BR>　が、すぐに手頚にも足頚にも枷が施されていない事を悟ると容易くそれらが沈静する。</P>
<P>「ゆ、めだ･･････」</P>
<P>　殆ど声になっていない擦れた吐息の様な呟きだった。<BR>　波立った心を深呼吸で宥めつつ、先刻までの数々の不可解は全て夢の中に居た所為だったのだと納得する。</P>
<P>　未来などではなく、あれは過去だったのだ。<BR>　何も不可思議な事は無く実際に体験した、つい最近の出来事の一部が違った形で表れたに過ぎない。</P>
<P>　ハボックはゆっくりと上体を起こした。<BR>　鉛が詰まっているかの様に頭が重いが、今は痛みを殆ど感じていない御蔭で、大して苦を覚えず躰を動かせる。</P>
<P>　そうなると俄かに、屋外への欲求が強くハボックを支配し始めた。<BR>　<BR>　とにかく広い場所に出て行きたい。<BR>　窓から望む四角に切り取られた空ではなく、見上げれば一面に広がるそれを眺めながら、何の憂いも抱かず存分に躰中を外の空気に晒したくて堪らなくなる。</P>
<P>　それはどうしようもない衝動だった。</P>
<P>　ハボックはベッドから下り立ち、閉ざされていた扉に向かって吸い寄せられた様に駆け寄ると、勢い良く開け放つ。<BR>　そこはまだ外ではない。<BR>　正面奥に、たった今開けた扉よりも重厚な造りのそれが立ちはだかっている。</P>
<P>　ひどく耳鳴りがしていた。<BR>　その向こうで誰かが何か呼び掛けている気がしたが、構うつもりなど無い。<BR>　不快感に表情を歪めながら、焦りを滲ませて尚も、しゃにむに進む。</P>
<P>　早く。<BR>　―――早く。</P>
<P>「だから『待て』と言っている！」</P>
<P>　突然、耳に飛び込んできた抑え気味の怒声と共に背後から肩を攫まれ、行く手を阻まれた。<BR>　ハボックは邪魔をするそれを反射的に叩き落とす。<BR>　そして、妨げである存在の正体を良く判らないまま振り仰ぎ、湧き上がる心情のまま苛立ちと憎しみを込めてぎっ、と睨み上げた。</P>
<P>「･･････ぁ」</P>
<P>　相手の顔を目にした途端に気の抜けた、まったく言葉になっていない声が小さく零れ出る。<BR>　同時に鋭い眼光は形を潜め、その碧眼が驚愕で見開かれた。<BR>　間を置かず我に返ったハボックの脳裏に、起きる前までの一連の出来事が目まぐるしく過ぎる。</P>
<P>　あぁ、そうだ。<BR>　あの日々はもう終わったんだった。</P>
<P>「たい、さ」</P>
<P>　自身の肩を攫むその人物を指す呼称が、口からぽろりと転がり出た。</P>
<P>　幼さが残る声が紡いだ呼び掛けを無視し、目撃者の有無に注意を払いながら、マスタングはハボックを隠す様に抱え込んだ。<BR>　そして、たった今出て来たばかりの建物の玄関へと彼を引き摺り込む。<BR>　抱えたままの態で階段を上り、借り受けている一室まで辿り着くと、腕の中に収まっている躰を素早く室内に押し込んだ。</P>
<P>　後ろ手に扉を締め、施錠したところで漸くマスタングが口を開いた。<BR>　<BR>「動ける程度には快復したか？<BR>　―――の割には相変わらず顔色は悪いが」</P>
<P>　応えは返さない。<BR>　その代わりに、ハボックは焔と向かい合うよう真正面に立ち、些か難を感じる高位置にある黒壇の眼を、出来得る限り顎を上げてしっかりと見つめる。</P>
<P>　身を隠さねばならぬ立場でありながら、何処に誰の目があるとも知れない屋外に進んで出る、という素人然とした迂闊な行動を取ったのだ。<BR>　先ず叱責を受けるべきだ、とハボックは考えた。<BR>　まるで、断罪の言葉が述べられるのを潔く待つ被告の心持ちだ。</P>
<P>　そのような、ハボックの心境を理解しているのか否か。<BR>　暫し黙して至極真面目に彼と視線を交わしていたマスタングだったが、ふと目を眇めた刹那、失笑したのである。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=165" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=165</id><issued>2011-07-04T23:19:00+09:00</issued><modified>2011-07-24T13:37:06Z</modified><created>2011-07-04T14:19:00Z</created><summary>　　　運河に程近い場所に、その青空市場は在る。　食料品や衣料品、日用品に加えて雑貨に至るまで、ありとあらゆる物を安価で揃えることが可能であり、イーストシティの一般市民の中でも生活レベルが中流以下に当たる人々の多くが利用している大きな市場だ。
　何十もの...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>　運河に程近い場所に、その青空市場は在る。<BR>　食料品や衣料品、日用品に加えて雑貨に至るまで、ありとあらゆる物を安価で揃えることが可能であり、イーストシティの一般市民の中でも生活レベルが中流以下に当たる人々の多くが利用している大きな市場だ。</P>
<P>　何十もの店が立ち並ぶ中、処々で声を掛け、掛けられている男が居た。<BR>　癖のある赤髪が印象的で、その格好付けつつもだらしない身形からは普段の生活が窺えそうだ。</P>
<P>「なぁ、この辺で見慣れない少年を見なかったか？<BR>　身長は４フィート８インチ位で短めの金髪、垂れ目の碧眼だ」</P>
<P>　男は市場に足を踏み入れてからというもの、此処彼処でこの質問を繰り返していた。<BR>　ようやっとそれらしい答が返ってきたのは、何人目に対する問い掛けだったのか、もう本人にすら判らない。</P>
<P>　男が求める情報を齎したのは、衣服を扱う露店の主であった。<BR>　彼は男に訊ねられ、角ばった顎一面に広がった無精髭をなぞりながら思案する仕種を見せ、小さく唸った。</P>
<P>「姿を見たってぇわけじゃねぇんだが、ちょっと前に、その位のサイズの男子服を買って行った女が居たぜ」</P>
<P>　顔馴染みの店主の返事に男は目を光らせ、ぐいと身を乗り出した。</P>
<P>「日用品から何からごっそり、生活必需品を一揃い買ってるもんで気になって聞いたんだが、田舎の実家で暮らしてた弟を急に預かる事になったとか言ってたなぁ。</P>
<P>　いやぁ、その女が俺好みの美人で―――」</P>
<P>「その女って、市場の常連か？」</P>
<P>　店主のどうでも良い話を容赦無く遮り、男は更に問うた。<BR>　別段気を悪くした様子も無く、店主は頭を振って返答を寄越す。</P>
<P>「いいや、多分違う。<BR>　少なくとも俺の記憶には無い顔だね。</P>
<P>　そこの橋を渡って行ったぞ。<BR>　あの大荷物だし、車で来てたんじゃねぇかな」</P>
<P>　こちら側は立ち並ぶ露店と人波でごった返しているので無理だが、橋の向こう側は出店が禁じられている為に駐車は可能である。<BR>　基本的に近隣の住人を対象にして開かれている場であり、わざわざ車でやって来る者など、そうは居ないが全く居ないということもない。<BR>　<BR>「そっか。<BR>　ありがとな！」</P>
<P>　男は軽く挙手すると踵を返した。<BR>　向かう先は件の橋がある方角だ。</P>
<P>「ついさっきの話じゃないぜ。<BR>　もうとっくに、どっかへ行っちまってるぞ」</P>
<P>　すかさず店主が男の背に声を掛ける。<BR>　と、男は歩みは止めぬまま振り返った。</P>
<P>「俺を誰だと思ってんだ？」</P>
<P>　その得意気な顔に、店主は納得した様子で頷いた。<BR>　男が見掛け通りの放蕩者ではない事を、彼は知っていたからだ。</P>
<P>　その赤髪から連想される名―――?レッド?。<BR>　このイーストシティの裏側では、情報屋として広く知られているそれが、再びを背を向け歩き出した男の名前である。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>　件の女は慎重な人物だったようで、橋を渡って行った先の行方が杳として知れなかった。<BR>　彼女が車に乗ったのかどうか、その問いにさえ皆が皆、揃いも揃って小首を傾げる始末だ。</P>
<P>　だからこそレッドは確信できた。<BR>　一般人が為したとは到底思えぬ程に上手く行方を晦ませた、その行動に隙の無い女を追えば、いずれ捜索対象である少年に辿り着けるに違いない、と。<BR>　<BR>「こりゃあ案外、報酬相当の仕事になるかも知れねぇなぁ･･････」</P>
<P>　依頼を受けた時は、相手が提示してきた仕事料の破格の値に驚かされたが、どうやら単なる人捜しには収まりそうもないようだ。</P>
<P>　感じ始めた手応えに緊張が生まれ、自然と乾きだした口唇をぺろり、と舐める。<BR>　<BR>　予想通りの難儀な案件になれば良い。<BR>　そうなれば調査費として依頼料を上乗せできる、してやる。<BR>　是非とも、そうなれば良い。</P>
<P>　今件の依頼者であるフーカー大尉は、いつも言い値に色を着けて支払ってくる上客だ。<BR>　レッドはその気前の良さだけは気に入っており、彼からの依頼は極力受けるようにしていた。<BR>　<BR>　今回も良い儲けになるだろうと考えるレッドの顔は自然と、にやけてくる。<BR>　<BR>　―――何でそんなに金が要るんだ？</P>
<P>　まだ記憶に新しい過去、厭味の無い笑みを溢しながら面と向かって『守銭奴だなぁ』と揶揄してきた、ある男の問い掛けが不意にレッドの脳裏を過ぎった。<BR>　<BR>　あれは責めるでもなく憐れむでもなく本当に、ただ純粋に投げ掛けられた質問であった。</P>
<P>　問うてきた男―――ジャン・ハボックは同じ軍人であるがフーカーとは逆に、いつも値切ってくるような鬱陶しい依頼者だ。<BR>　<BR>　問い掛けに対し、答えてやる義理は無いと突っ撥ねてやったら、遠慮無しに値切る宣言をされてしまった。<BR>　事情に因ってはそういった事を抑える心積もりで訊いてきたらしいが、どこまで本気だったのか疑わしくなるような清々しい顔だった。<BR>　<BR>　癪に障るところもある奴だが一言で評価するならば、彼の事は気に入っている。<BR>　何故か憎めない、不思議な男だ。<BR>　<BR>　一方で、解らない。<BR>　頭の回転が速いのか鈍いのか、単純なのか腹黒いのか。　レッドは、そんな不可解な部分に妙味を感じているのかもしれない。</P>
<P>　生業上、勝手に集まってくる情報も多岐に渡り、彼の少尉が行方不明だという事を当然のように知っている。<BR>　が、依頼を受けているわけでもないので探しはしていない。<BR>　･･････しては、いないが。<BR>　それでも彼が無事であることを願っている。<BR>　<BR>　レッドは、らしくない自身がこそばゆかった。<BR>　誰にその心を知られたわけでもないのに、些少の羞恥を覚える。</P>
<P>「さぁて、行くか！」</P>
<P>　それを誤魔化そうと声に出して、途絶えた女の足取りを追うべく意識を集中させた。</P>
<P>　ここはイーストシティ。<BR>　―――赤髪の庭である。<BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>かりそめの客</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=164" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=164</id><issued>2011-05-11T23:22:00+09:00</issued><modified>2011-05-11T15:08:59Z</modified><created>2011-05-11T14:22:00Z</created><summary>　傍迷惑な客が来る、と東方司令部の若き司令官が告げた。　　常ならば、その客とは軍上層部の人間のことである。　階段を駆けのぼる勢いでのし上がってくる若造に、自分の地位が奪われる事を警戒して、牽制しにやって来るのだ。
「いつもの御偉いさんとは違うんスか？」...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>プラトニック</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P><BR><BR>　傍迷惑な客が来る、と東方司令部の若き司令官が告げた。<BR>　<BR>　常ならば、その客とは軍上層部の人間のことである。<BR>　階段を駆けのぼる勢いでのし上がってくる若造に、自分の地位が奪われる事を警戒して、牽制しにやって来るのだ。</P>
<P>「いつもの御偉いさんとは違うんスか？」</P>
<P>　傍らに立つハボックが、首を傾げつつ訊いた。<BR>　<BR>　そのような態で尋ねたのには勿論のこと理由がある。<BR>　司令官の眉間には皺が寄り鬱陶しげではあるが、言葉の端々や纏っている雰囲気に、ピリピリとした拒否反応がまるで見受けられなかったからだ。</P>
<P>「ああ、違う。<BR>　もっと迷惑な奴だ」</P>
<P>　面倒臭そうに手をひらつかせながら、律儀に返答するあたりにも、彼の?客?に対する感情が決して悪いものではないことが読める。</P>
<P>「はぁ。<BR>　そっスか」</P>
<P>　それにしても。<BR>　腹心の部下たちの間で、傍迷惑の代名詞となっている焔の錬金術師に、そこまで言わせる人物とは何者なのだろうか。<BR>　<BR>　ハボックは俄かに興味を抱いた。</P>
<P>「もうすぐ到着するだろう。<BR>　迎えに行かせたから、ブレダが最初の犠牲者だな。</P>
<P>　ハボック、おまえも覚悟しておけ。<BR>　会う人間すべてに愛娘の写真をちらつかせて、延々と娘の自慢話を続けるからな。<BR>　<BR>　特に初対面の相手となれば、長くなるぞ」</P>
<P>「それは･･････、確かに迷惑っスね」</P>
<P>　軽く眉根を寄せてみせる部下に、迷惑上司は実に嬉しそうな、厭味のある笑みをこぼす。</P>
<P>「だが、逃げられんぞ。<BR>　何せヒューズは?中佐?だからな」</P>
<P>　尉官の分際で佐官が為す事に異議申し立てできないのは、軍社会における基本である。<BR>　迷惑に思おうが回避不可能なのだ。</P>
<P>　逃げられないと悟った瞬間のハボックの顔はどのようなものか。<BR>　さぞかし苦い表情を見せてくれるだろう、と部下の顔を窺った焔の男は、つまらなさそうに僅かに口を尖らせた。</P>
<P>　彼の部下は少しも厭そうではない。<BR>　それどころか、眉間の皺が消え失せている。</P>
<P>「何を驚く？」</P>
<P>　不敬にも、ハボックは上司の問に問を重ねた。</P>
<P>「ヒューズって･･････まさか?マース・ヒューズ?ってフルネームじゃあ、ない･･････っスよね？」</P>
<P>　階級を付けずに礼を欠いた事にではなく、一物ある様子に対してマスタングは眉を顰める。　</P>
<P>「あぁ。<BR>　マース・ヒューズ中佐。<BR>　軍法会議所に所属している親バカだ。<BR>　<BR>　おまえ、奴と知り合いだったのか？」</P>
<P>　ハボックの応えは無い。<BR>　青い双眸は焦点を定めず、ただ目一杯に開いて驚愕のみを示していた。</P>
<P>　</P>
<P>&nbsp;</P>
<P><BR>
<CENTER>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊</CENTER>
<P></P>
<P>&nbsp;</P>
<P>&nbsp;</P>
<P><BR>　中央に比べれば可愛いものとはいえ、東方でも駅のコンコースは、平日から人波が絶えることはない。<BR>　そんな中から青い軍服を見つけ出すと、ブレダはそちらへ向かって駆けた。</P>
<P>「ヒューズ中佐ですね？」</P>
<P>　中佐であることを示す肩章を付けた男が振り返った。<BR>　彼の目には、敬礼する小太りの少尉の姿が映っている。</P>
<P>「ブレダ少尉であります。<BR>　マスタング大佐の命により、お迎えに上がりました｣</P>
<P>「ああ、ご苦労さん」</P>
<P>　男―――ヒューズは、人好きのする笑みを惜しみなく浮かべた。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>　東方司令部に向かう車内では、当司令部の副司令官である焔の大佐の話題で花が咲いている。<BR>　<BR>　結果として良くも悪くも、現場好きで何かとしゃしゃり出て来られるのは困る。<BR>　事務処理嫌いで、それを言葉少なに窘める美人中尉には頭が上がらない。<BR>　サボタージュ病が慢性化してしまっている。<BR>　　<BR>　そんな数々の話を、彼の人物の親友だというヒューズは、時に軽く笑い声を上げながら聞いていた。<BR>　<BR>「おまえさん達には迷惑だろうが、ロイは今までに無くのびのびと仕事をしているらしい。<BR>　友人としては、喜ばしいところだな」</P>
<P>　その声音には安堵が見え隠れしていて、彼らの関係は単なる友人知人という表現では収まらない絆の深さをブレダに想像させた。</P>
<P>「まぁ、最近はなかなかサボれないようですがね」</P>
<P>　彼の上司にとってはまったく面白くない事実を、ブレダが半ば楽しそうに言うと、ヒューズは小首を傾げた。</P>
<P>「何で？」</P>
<P>　最近、何か環境の変化があったとは聞いていない。<BR>　『サボ<RUBY>れない<RT>、、、</RT></RUBY>』と言うからには、心境の変化ではないだろう。</P>
<P>「目付け役が二人になりましたから」</P>
<P>「二人？<BR>　一人はホークアイ中尉だよな。<BR>　彼女と？」</P>
<P>「ハボック少尉という男です」</P>
<P>　刹那、ヒューズが一瞬だけ息を呑んだことに、ブレダは気付いていない。　</P>
<P>「もしかして?ジャン・ハボック?か？<BR>　金髪碧眼で長身の？」</P>
<P>　身を乗り出して驚愕の眼差しで問う上官を、バックミラー越しに一瞥したブレダの返答は、はっきり肯定を示すひと言だった。<BR>　加えて、今度はこちらが尋ねる。</P>
<P>「ヤツを御存知で？」</P>
<P>　がらりと様子を変えていた後部座席の主はすぐに落ち着きを取り戻し、再びシートに深く躰を沈めた。</P>
<P>「･･････ああ。<BR>　何年も前に、戦場でな」</P>
<P>　まさかロイの部下になってるとはな、と一見何でもない風にヒューズは言った。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>&nbsp;</P>
<P><BR>
<CENTER>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊</CENTER>
<P></P>
<P>&nbsp;</P>
<P>&nbsp;</P>
<P><BR>　司令部に到着した客は、副司令が懸念していた通り、恐ろしい程のバカ親っぷりを周囲に披露した。<BR>　<BR>　彼がここに来た理由は勿論、このような事で勤勉な軍人達を困惑の泥沼に落とす為ではない。<BR>　しかしながら、想像以上に親友にとって過ごし易い恵まれた環境にあると判明し、すっかり安心したので少しばかり<RUBY>箍<RT>たが</RT></RUBY>を外してしまったのだ。<BR>　<BR>　そういった訳なるものが一応存在するのだが、だから彼の愚行を赦してやってくれ、と弁護してくれる者はこの場に誰一人として居ない。<BR>　居なくて良いのだ。</P>
<P>「さっさと用事を済ませて帰れ。<BR>　おまえが居ると鬱陶しくてかなわん」</P>
<P>「ひどっ･･････！<BR>　聞いた？<BR>　今の聞いたか？」</P>
<P>　マスタングの腹心面々に訴えるヒューズに同情の声は寄せられなかった。<BR>　―――それどころか、視線すら。</P>
<P>　皆一様にうんざりした態で素知らぬ顔をして、それぞれ思い思いの方向を<RUBY>見遣<RT>みや</RT></RUBY>る。<BR>　<BR>「何だ、感じ悪いなぁ。<BR>　皆してそういう態度取るのかー、そうかー。<BR>　じゃあいっそのこと嫌われついでに暫く居座っちゃおうかなー」</P>
<P>　口を尖らせ、あからさまに拗ねてみせる髭中佐を、暑い最中で暑苦しいモノを見せられているかの様なうんざりした視線が四方から襲う。<BR>　が、当の本人は全く気にする様子が無い。</P>
<P>「･･････誰かこいつの相手をしろ」</P>
<P>　己の部下をぐるりと見渡して言い放つと、マスタングはそそくさとこの場を後にした。<BR>　その素早さと言ったら、ホークアイが声を掛ける暇すら与えなかった程である。</P>
<P>「ずりぃ、大佐！」</P>
<P>　少尉コンビが声を揃えて既に閉まった扉に向かって抗議し、准尉と軍曹は心の内で嫌な役に当たらぬ為の算段を始め、麗しの中尉は深い溜息を吐いた。</P>
<P>「そうだ、ハボック」</P>
<P>　ブレダの肉厚のある拳が手槌を打った。<BR>　<BR>　この時点で、名を呼ばれた方は嫌な予感に眉を顰める。</P>
<P>「おまえ中佐と知り合いだったんだってな。<BR>　<BR>　積もる話もあるだろ？<BR>　そのついでに娘さんの話聞いてやれ。<BR>　･･････じゃない、聞かせてもらえ」</P>
<P>「どっちがついでだよ」</P>
<P>　ハボックの不満気な台詞に耳を貸す様子は微塵も見せず、ブレダは然も申し訳無さそうに困り者の中佐殿へと躰の向きを変える。</P>
<P>「すみません、中佐。<BR>　仕事が立て込んでいるので、ひとり暇を持て余しているハボック少尉のみのお相手で御勘弁ください」</P>
<P>「おー良いぞいいぞー、気にするなよ。<BR>　御苦労様」</P>
<P>「では失礼します」</P>
<P>　敬礼し、踵を返したブレダに続いて、ファルマンとフュリーも同じようにして連なって退室していく。<BR>　<BR>「ハボック少尉、お願いね」</P>
<P>　頼みの綱だった筈のホークアイの言葉に、ハボックはがくりと肩を落とした。<BR>　それを尻目にヒューズに敬礼し、彼女は堂々と去って行ってしまったのだった。　</P>
<P>「えぇぇぇー･･････」</P>
<P>　不満たらたらの声をハボックが漏らしたのは、皆が退室した後である。<BR>　<BR>「まぁ、そんな厭がるなよ。<BR>　傷付くぞー」</P>
<P>　そう言って後ろから頚に片腕を回してきたヒューズが、更に耳元へ唇を寄せて囁いてきた。</P>
<P>「久しぶりだな」</P>
<P>　他に誰が居るわけでもない。<BR>　他に知られては困る内容の囁きでもない。<BR>　けれども敢えてそうしてきたことが、ハボックにかつての秘め事を思い起こさせた。</P>
<P>「･･････はぁ」</P>
<P>　照れが混じって気の抜けた返答をしてしまう。</P>
<P>「なんだ気の無い返事だな」</P>
<P>　別段気にする様子も無く、ヒューズが笑う。<BR>　つられたように笑みを浮かべたハボックは、さりげなく頚に回っていた腕を退けると、躰の向きを相手の真正面へと変えた。</P>
<P>「あの大佐に『迷惑極まりない』と言わせる人物って、何者かと思いましたよ」</P>
<P>「何だロイの奴、そんな風に言ってやがるのか」</P>
<P>　不服そうな口調だが、その表情は何処かしら柔らかい。<BR>　それを見ただけで曲者上司二人の間柄がどのような類のものであるかは明白で、自然とハボックの顔は和む。<BR>　<BR>「あの戦争が終結して直ぐ、ガトーの家族に会いに行ったんだ。<BR>　･･････おまえも行ってたんだな」</P>
<P>　こくり、とハボックは首肯した。</P>
<P>「人伝に隊長の御両親から希まれて」　　</P>
<P>　彼の立派な最期を知っているのは自分一人だけだから、それを遺された家族に伝えてやれるのは他に居ないと知っていた。<BR>　そうしたい気持ちは無事戻った時から確かにあった。<BR>　が、それは唯一生き残った事に罪悪感を抱いていたハボックにとって、自身の心の傷を抉る行為だ。<BR>　<BR>　正直、恐ろしかった。<BR>　それで二の足を踏んでいたところに、その話が舞い込んできたのだ。</P>
<P>　行きたい、行きたくない。<BR>　会いたい、会いたくない。</P>
<P>　遺族と視線を交わす寸前まで、相反する感情がハボックの心に波風を立てていた。<BR>　<BR>「優しい人たちでした。<BR>　あの人たちの御蔭で、ちゃんと眠れるようにもなりましたよ」</P>
<P>　闇に死を感じ、その恐怖が睡眠の妨げとなった日々はもう遠い。</P>
<P>「おぉ、そうか！<BR>　良かったなぁ！」<BR>　<BR>　懐かしそうに目を細めたハボックの言葉に、かつて彼と同じ傷を舐め合ったヒューズは、彼の肩を叩いて大仰に喜んでみせた。　</P>
<P>「･･････中佐は？」</P>
<P>　青の窺う視線に、問われた側の口唇は孤を描く。　</P>
<P>「もちろん絶好調！」</P>
<P>　に、と笑う様子には嘘を微塵も感じ取れない。<BR>　ハボックは小さく安堵の息を吐き、改めて笑みを浮かべた。　<BR>　<BR>「そっか。<BR>　良かったっスね、お互い」</P>
<P>「そうだな」</P>
<P>　そう応えながら、ヒューズがはにかむ金髪を片手でくしゃくしゃと些か乱暴に撫でる。<BR>　と、途端に抗議の声が上がった。<BR>　それに触発されて更に今度は両手で構えば、軽く叩き落とされてしまった。</P>
<P>「ははっ、悪ぃ悪ぃ。<BR>　近所の飼い犬を思い出しちまった」</P>
<P>「俺は犬じゃありませんよ」</P>
<P>「そりゃ、解っちゃあいるけどな」</P>
<P>　そこには二人が顔を合わせてからずっと感じている懐かしさと気恥ずかしさがあって、彼らをただ優しく取り巻いている。</P>
<P>　彼らは互いに気付かない。</P>
<P>　掌に残る意外に柔らかかった髪の感触を名残惜しげに見つめ、ヒューズは内心戸惑っていた。<BR>　同時にハボックもまた、余りに乱れた髪を適当に直しながら頭部に残る掌を心地好く感じたことに困惑していたのだ。<BR>　<BR>　懐古と面映さだけではない。<BR>　それらに紛れて確かに存在を主張しているこの感じは何なのか、と。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>　―――彼らにはまだ、知る由など無い。<BR>　<BR>　この再会が<RUBY>齎<RT>もたら</RT></RUBY>した互いの恋情も。<BR>　それが行き着く先にある悲嘆もまた。<BR><BR>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　<STRONG>Ｆｉｎ</STRONG><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=163" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=163</id><issued>2011-05-01T06:44:00+09:00</issued><modified>2011-07-01T14:28:19Z</modified><created>2011-04-30T21:44:00Z</created><summary>　不明だらけの少年を抱えたマスタングが、その一室を?書庫?として借り受けているという建物に入って行ったのを見届けてすぐに、ホークアイは上司の車で自宅に帰り、彼と同じく私服に着替えた。
　匿うことと相成った少年が生活を送ることができる一通りの物を揃えるのに...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P><BR><BR>　不明だらけの少年を抱えたマスタングが、その一室を?書庫?として借り受けているという建物に入って行ったのを見届けてすぐに、ホークアイは上司の車で自宅に帰り、彼と同じく私服に着替えた。</P>
<P>　匿うことと相成った少年が生活を送ることができる一通りの物を揃えるのに使え、と上司から渡されたのは国家錬金術師の証である銀時計と、彼によって一筆書かれた紙片だった。<BR>　それらを然るべき場所に持ち込んだところ差し出された紙幣の数に、彼女は一割の感嘆と九割の呆れで小さく溜息を溢した。</P>
<P>　掛かる費用に余裕をもたせている、と理解するには余りにも多額だ。<BR>　その金額といったら、仮にそれぞれの品を有名専門店で揃えたとしても余りある。<BR>　<BR>　大体そのような店舗では、こちらの顔を覚えられて足が着き易くなるのだから、利用するのは大勢が犇めき合い、客が何処の誰であろうが一切頓着しないことが前提になっている大衆市場が望ましい。　<BR>　<BR>　それはマスタングだって承知しているだろうから、彼は解っていないということだ。<BR>　そういった処で売られている物の相場というものを。<BR>　<BR>　決して育ちの良い出自ではないのに、彼の人の金銭感覚は全くもって一般的ではない。<BR>　国家錬金術師の称号を得て以来、物に対する価値観が変わったのだ。</P>
<P>　―――いいえ、違う。</P>
<P>　ホークアイはすぐにその考えを自ら否定した。</P>
<P>　彼はただ、忘れてしまったのだ。<BR>　庶民の金銭感覚というものを。<BR>　　<BR>　人が質素から贅沢に移り変わり、それに慣れていくのは容易い。<BR>　そして、その逆は困難なものだ。</P>
<P>　ただ変わるだけならば、どちらも?悪?ではない。<BR>　恐ろしいのは、その変遷が往々にして人の内面に驕りや卑屈等の悪影響を及ぼすこと。</P>
<P>　その点においては、マスタングに心配など不要だった。<BR>　金銭で焔を形作る概念や思想は変わらぬほど、彼の根幹は揺ぎ無い。</P>
<P>　己を含める彼の周囲に集った者たちも、また。<BR>　<BR>　そこでふと、これからその輪の中に加わる可能性が高い、一人の人物のことがホークアイの脳裏に閃いた。</P>
<P>　では、彼は？<BR>　マスタングから新たな部下に、と希まれている彼―――ジャン・ハボック少尉はどうなのだろうか。</P>
<P>　マスタングが彼に興味を抱いているのは以前から気取っていた。<BR>　今回の件でそれが明確となったわけだが、ホークアイとしては実のところ、興味は興味のままで止まっていてほしいと思っていたのである。</P>
<P>　ハボックという人物はどうにも解せない。<BR>　履歴を見れば、なるほど銃器の扱いや体術に長けていると知れる。<BR>　が、内面的なものがとても曖昧で不鮮明なのだ。<BR>　直接顔を合わせ話してみたこともあるが、飄々としたスタイルで腹の内を上手く隠され、読み取ることができなかった。<BR>　<BR>　解らぬままではマスタングの手駒として受け入れ難い。<BR>　しかし、彼の周囲は些か武の部分が弱く、必要な種類の人物であることも確かで。</P>
<P>　今、ホークアイがハボックについて言えるのは一つだけ。<BR>　無二の貴重な部下となるか、大いなる妨げになるか、彼においてはその二択しかない、ということだけだ。</P>
<P>　彼がマスタングに深く関わるとすれば、どちらか両極端しか無い。<BR>　可も不可も無い、どうでも良い位置に立つことは考えられないのだ。　　<BR>　<BR>　そんな危険な賭けに乗るのは御免被りたい、とつくづくホークアイは思う。　</P>
<P>　･･････だけど。</P>
<P>　彼女の口唇から細く長い溜息が吐き出された。</P>
<P>　危ない橋を渡るのは避けたいのは事実だが、おそらくその希望は叶わない。<BR>　<BR>　何故なら、マスタングがもう既に決めている。<BR>　ならば彼女には焔の決定に従い、共に行くより他に選択肢は無いのだ。<BR>　<BR>　それが彼女の信念であり誇りだから。<BR>　―――そして、彼に焔の錬金術を授けた者の義務として。</P>
<P>　ふと、賭けの勝ちを願うホークアイの脳裏に解せない男の青い双眸が過ぎった。</P>
<P>　ハボックに似ていると焔が評していたあの少年の眼差しと、少尉のそれが確かに近しいものであると、ホークアイは認めざるを得ない。</P>
<P>　彼らは似ている。<BR>　たとえ類似点が皆無だったとしても、ハボックの認識票を携えていた以上、無関係である筈が無い。</P>
<P>　途端、彼女は苦い顔をした。　</P>
<P>　問題の認識票を襟元から引き出す際、気付いてしまった白い肌に残された痕。</P>
<P>　あの少年は恐らく―――。</P>
<P>　無理強いによるものか、享受せねばならない境遇にあったのか。<BR>　どちらにせよ目にした痕を思い出すと胸が痛んだ。</P>
<P>　ハボックと何らかの関係があることは間違いない。<BR>　だが、どのような関連付けが為されているのかは未だ不明だ。<BR>　これからホークアイは焔の補佐官として正しい情報を得、そして見究めていかねばならない。</P>
<P>　どうか、焔の期待を裏切る形ではないように。<BR>　<BR>　彼女は切に願った。</P>
<P><BR><BR><BR><BR>&nbsp;</P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=162" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=162</id><issued>2011-03-10T23:24:00+09:00</issued><modified>2011-08-05T14:23:21Z</modified><created>2011-03-10T14:24:00Z</created><summary>　　　どろどろと体躯に纏わり付く水の底から浮かび上がるような感覚と共に、ハボックは意識を覚醒させた。　　意識を失くす前と変わらず頭は疼痛に苛まれており、左上腕もずきずきと痛んでいる。　更に全身が内側から熱く、どうしようもなく重くて怠い。
　未だ己の躰が...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>　どろどろと体躯に纏わり付く水の底から浮かび上がるような感覚と共に、ハボックは意識を覚醒させた。<BR>　<BR>　意識を失くす前と変わらず頭は疼痛に苛まれており、左上腕もずきずきと痛んでいる。<BR>　更に全身が内側から熱く、どうしようもなく重くて怠い。</P>
<P>　未だ己の躰が切実に眠りを求めているのが解る。<BR>　その証拠に、頭は目覚めてはいるものの躰の方は持ち主の意思を無視して、瞼が下りたままだ。<BR>　それを懸命に持ち上げようと何度も試みるが、一度だけぴくりと小さく痙攣しただけで、本人の思い通りにはならない。</P>
<P>　苦痛と倦怠感が渦巻く中で、ハボックは苛立ちだけを募らせていく。</P>
<P>「･･････酷いものだ、こんな子供に」</P>
<P>　不意に頭上から降って来た声は少し嗄れた、老人と思しき男性のそれで、ハボックには全く聞き覚えが無いものだ。<BR>　自然とそちらに意識が向くと、彼の内側で燻っていた感情は至極あっさりと霧散した。<BR>　<BR>「上腕の銃創は大事無いが肉を削っているので、傷が残るかもれしれない。<BR>　口端の傷と頬の痣は殴られたもので、こちらは日にち薬で治る程度の怪我だ。<BR>　右手頚に比較的新しい切り傷があるが、これだけはきちんと治療を受けた痕があるから、他の外傷との関連性は薄いね。<BR>　<BR>　両手頚と左足頚の痣は硬い物で拘束された痕だ。<BR>　特に足頚の方は長くその状態が続いていたんだろう、皮膚に色素が沈着し始めている。<BR>　消えるには大分と日が掛かる･･････か、まぁ目立たん程度だが少し残るかも知れんな」</P>
<P>　どうやら医者なのだろうが預り知らぬ人物に、これまた誰だか判らない相手へ、自分の身に起きている現状を勝手に告げられていることに不快感を覚えながら、ハボックは語られる内容に耳を欹てる。<BR>　<BR>　何せ自身の事だ。<BR>　どれだけのダメージを受けているのか、明確に知れるものならば知っておきたいのは当然と言えよう。<BR>　<BR>「咽喉が真っ赤に腫れとる。<BR>　かなり重症化しとるが肺炎は起こしておらんし、喘息の症状も出ていない。<BR>　ただの風邪だ、心配無い。</P>
<P>　ここまで高熱なのは元々躰が虚弱なのか、衰弱して体力が落ちていた所為か、それとも精神的な問題か･･････」</P>
<P>　そこで一旦言葉を切り、嗄れ声の主は大きく溜息を吐いた。</P>
<P>「本当に、酷いものだ。</P>
<P>　性的虐待も受けとるぞ。<BR>　暴行まで為されたかは傷の有無が確認出来ん以上何とも言えんが、とにかく躰中、至る所に鬱血痕がある」</P>
<P>　途端、羞恥心がハボックを襲った。</P>
<P>　誰に告げた。<BR>　誰が知った。<BR>　こんな―――こんな、居た堪れない事実を。</P>
<P>「他に気になるのは腕にある注射の痕だね。<BR>　古いものから新しいものまで、かなりの数だ」</P>
<P>　ハボックの心中に俄かに起こった嵐に気付く者は居らず、話は淡々と進められていく。<BR>　その単調さには彼の心を鎮める効果があった。</P>
<P>「何を射たれたのか解らないと下手に薬は出せな―――」<BR>　<BR>「眠ら、されて･･････た･･････」</P>
<P>　未だ瞼を持ち上げられない状態でありながら、ハボックは声を絞り出して、紡がれ続けていた言葉をやっとのことで遮った。<BR>　<BR>　嗄れ声が聞こえ始めてからこちら、ずっと感じ続けていた不愉快にとうとう堪えきれなくなった結果である。</P>
<P>「お、起きたか」</P>
<P>　今度は聞き覚えのある声が掛けられ、その影響か、苦痛や疲労に捕らわれていた意識がより明確な覚醒を迎えた。<BR>　と、同時に眠りに就く直前までの記憶が鮮明に甦り、漸く目を開けたハボックは慌てて起き上がる。</P>
<P>「っ、･･････！」</P>
<P>　脳内で大音量の鐘が鳴り響いたようだった。</P>
<P>　思わず躰をくの字に曲げ、両手で激しい痛みを訴える側頭部を抱える。<BR>　<BR>「あぁ、あぁ。<BR>　起きては駄目だよ、横になりなさい」</P>
<P>　嗄れ声に言われるまでもなく、ハボックの躰は深く折り曲げた上体のまま、ぽてりと力無く横倒しに転がった。<BR>　それで幾分か楽になったものの頭痛はしつこく残っており、脈動に合わせて苛んでくる。</P>
<P>　一度だけ小さく呻いた後、ハボックは人の気配へ向けて視線を巡らせた。</P>
<P>　やはり嗄れ声の主は老人で、聴診器を頚に下げていたので医者だろうと判断した。<BR>　そして、もう一人は。</P>
<P>「そのままで良い、少し話せるか？」</P>
<P>　穏やかな口調で話し掛けてくるマスタングに、ハボックは無言で頷いた。<BR>　一刻も早く全て伝えて助力を仰がねばならないのだから、彼に否などあろう筈も無い。</P>
<P>「じゃあ、私は帰るとするか。<BR>　<BR>　やはり薬は出せん、せめて栄養剤だけ置いていこう。<BR>　あぁ、一応言っておくが、アルコールの摂取は厳禁だぞ」</P>
<P>「はは、まさか飲ませませんよ。<BR>　御心配無く」</P>
<P>　軽く笑いながら手早く身支度を済ませた老医師が診察鞄を手に提げると、マスタングは扉を開き、退室を促した。</P>
<P>「有り難うございました、院長」</P>
<P>「いやいや構わんよ。<BR>　現場から引退した暇人だ、何かあればまた診に来くるからいつでも声を掛けたら良い」</P>
<P>　二人が出て行き、再び閉まりつつある扉の向こうから聞こえる会話に、ハボックは何気なく耳を澄ます。<BR>　何かに意識を集中していないと眠ってしまいそうだったのだ。</P>
<P>「助かります。<BR>　その時は宜しく御願いします。<BR>　<BR>　それと―――今回の件、くれぐれも内密に」</P>
<P>「解っとるよ。<BR>　<BR>　そうそう、また孫娘が君に逢いたがっていてな。<BR>　忙しい身だろうが今度、時間を作ってやってくれんか」</P>
<P>「光栄です、喜んで。<BR>　先の予定が立ちましたら、すぐに御連絡差し上げます」</P>
<P>「ああ、頼むよ」</P>
<P>「はい。<BR>　それでは、また」</P>
<P>　玄関扉が閉まる音が静かに響き渡り、ほどなく静寂が訪れた。<BR>　やがて、ハボックの方へと近付いて来る靴音。</P>
<P>　まだ、だ。<BR>　まだ。<BR>　もう少し。</P>
<P>　睡眠を請う自身の躰に念じて聞かせる。<BR>　そうして、再び眠りに就こうと勝手に降りてくる瞼に、ハボックは懸命に逆らう努力をしなければならなかった。</P>
<P>「さて」</P>
<P>　その声で視線を上げれば、既にすぐ傍らまでマスタングは来ていて、ハボックはここまで近付かれるまで気付かなかったことに驚いた。<BR>　緩んでいるつもりは無かったが、またしても意識が朦朧としていたらしいと解って、改めて気を引き締める。</P>
<P>「先ず何から訊くべきか。</P>
<P>　･･････そうさな。<BR>　知るべき事より訊きたい事から、にしようか」</P>
<P>　独り言ちたマスタングの黒い眼から放たれた視線が、真っ直ぐに自身の眼へと向けられた時、知らずハボックは唾を飲んだ。</P>
<P>「これの持ち主が今何処に居るのか、知っているかね？」</P>
<P>　ちゃり、と金属同士が擦れる音と共に目の前にぶら下げられたのは、他ならぬハボックの認識票だった。</P>
<P>　この二枚のプレートが指し示す人物と、幼くなってしまった今の自分が、他人の眼に同じには映らない現実をまざまざと突きつけられ、当然だと認識していた筈なのに、ハボックは少なからず衝撃を受けて言葉を失った。</P>
<P>　これから己が語ろうとしている内容を全て事実だと、この人は受け入れてくれるだろうか。<BR>　荒唐無稽な作り話だと一笑されて耳を傾けてもらえなかったら、助力など得られない。</P>
<P>　不安が頭を擡げる。　　　</P>
<P>　ハボックは自身の頚を探り、そこにプレートが無い事を確認していた。<BR>　明確な目的があったわけではなく、ただ何となく手がそこにのびていたのだ。</P>
<P>　その仕種を見たマスタングが、手にぶら下げている認識票を皮紐ごと掌に乗せると、ハボックに差し出してきた。</P>
<P>「これは君が頚に下げていた物だ。<BR>　勝手に外させてもらった」</P>
<P>　―――そうだ、?俺?の物だ。<BR>　そして?俺?は、俺だ。<BR>　他の誰にもそうだと判らなくても、それは紛れも無い真実なんだ。<BR>　　<BR>　胸を占めていた不安を払拭するべく、ハボックは頭痛を押して頭を振った。<BR>　それから何とか上体を起こすとマスタングを仰ぎ見て、彼に向けて敬礼したのだ。</P>
<P>　自信を以て宣言すれば良い。<BR>　俺は俺だ、と。<BR>　<BR>「自分は、ジャン・ハボック、少尉･･････です。<BR>　･･････それの、持ち主は･･････今、あんたの目の前に･･････居る」</P>
<P>　起きているだけでも億劫で挫けそうになりながらも、ハボックは自身の存在をきっちりと主張した。<BR>　　<BR>　怪訝そうに眉を顰めるマスタングの瞳に映る、口角を引き上げた十代そこそこの少年の笑みは、やけに大人びている、自嘲を含ませたものだ。<BR>　<BR>　そのまま三呼吸もの間、両者は沈黙と静を保った。<BR>　後にその均衡を破ったのは、頭痛で煩悶の表情を閃かせて、浮かべていた笑みを収めたハボックの方であった。</P>
<P>　再び限界を迎え、電気の供給が突然途絶えた灯りの様に、彼の意識はふつりと途切れていった。　<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=161" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=161</id><issued>2010-12-24T00:30:00+09:00</issued><modified>2011-06-27T14:32:54Z</modified><created>2010-12-23T15:30:00Z</created><summary>　　&amp;nbsp;　ハモンドの後手に回っていたマスタングが、まんまと先んじて目的を達成できたのは少年の強運だっかのか、はたまたマスタングのそれか。　その答は無くとも、今、結果として彼は焔の手の内に在る。
　マスタングはホークアイを従え歩を進めながら、腕に抱えた...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>&nbsp;　ハモンドの後手に回っていたマスタングが、まんまと先んじて目的を達成できたのは少年の強運だっかのか、はたまたマスタングのそれか。<BR>　その答は無くとも、今、結果として彼は焔の手の内に在る。</P>
<P>　マスタングはホークアイを従え歩を進めながら、腕に抱えた成果をまじまじと眺めた。</P>
<P>　短く刈られた金髪。<BR>　そして、虚ろに開いている眼は晴天を映したような色合いだ。<BR>　それらは失踪中の少尉と酷似している。</P>
<P>　―――いや、それだけではない。<BR>　面差しも何処か彼を彷彿とさせるような。</P>
<P>「･･････ハボック少尉には兄弟が居るか？」</P>
<P>「確か、居ないと記憶しています」</P>
<P>「そうか。<BR>　―――まぁ、居たとしてもこの少年ではあるまいが」</P>
<P>　そうだとしたら、こちらにその情報が回ってくるのが当然である。<BR>　が、現在に至るまでマスタングの耳にそのような話は届いていない。</P>
<P>「そうですね。<BR>　確かに似ている気はしますが」</P>
<P>　少年の顔を一瞥し、そう答えたホークアイが辿り着いた車の後部座席のドアを開き、マスタングに対し乗車を促す。</P>
<P>「中尉、君が後ろに乗りたまえ」</P>
<P>「―――はい」</P>
<P>　指示に従い車に乗り込んだ副官に、抱えていた少年を預けると、マスタングは運転席に落ち着いた。<BR>　彼女から車の鍵を受け取り、エンジンをかける。</P>
<P>　走り出した軍用車は、ここから最短距離に在る軍病院へ続く道を無視し、むしろ逆方向に進み始めた。</P>
<P>「どちらへ行かれるのですか？」</P>
<P>　背後からの質問にマスタングは、ちらりとバックミラー越しに後部座席へと視線を遣る。<BR>　<BR>　少年の姿が見えない。<BR>　どうやら、彼女は彼に膝枕を施しているようだ。</P>
<P>「ハモンドに追われている以上、軍病院だとすぐに足がつくからな。　<BR>　私の隠れ家に招待するよ。<BR>　<BR>　書庫と言った方が正確かもしれんが」</P>
<P>　曲がり角に差し掛かる前に走る速度を緩やかに、充分に落としておく。<BR>　ステアリングを切りながら今度は優しく、徐々にアクセルを踏む。</P>
<P>　同乗している病人への配慮として、マスタングは普段にも増して安全運転を心掛けていた。</P>
<P>「匿うのですか？」</P>
<P>「不服かね」</P>
<P>「いえ。<BR>　ただ、それならば先刻の下士官たちの口止めを徹底させなければならないのでは？」</P>
<P>　佐官本人から命令だと釘を刺されたとはいえ、彼らが末端と言えどもハモンド派であることに違いはなく、その為に背かれる可能性は幾分か上がるだろう。<BR>　<BR>　少年を匿うつもりならば、彼らが命令を遵守する保障が欲しいところだ。<BR>　<BR>「別に構わん。<BR>　私が匿っているとハモンドに知られようが、少年の所在さえバレなければ問題無いさ。<BR>　むしろ、ハモンドが欲しがっていたカードを私が奪ったと知られた方が向こうも動いてくれるかも知れん。</P>
<P>　良い加減、埒が明かなくなってきていたしな。<BR>　もう水面下の遣り取りには、うんざりしてきていたところなんだ。<BR>　丁度良い」</P>
<P>「だから執務室で、わざわざ捜索に横槍を入れる宣言をなさったんですね」</P>
<P>　呆れを含んだ副官の言葉に、上官は人の悪い笑みを浮かべて是を示した。<BR><BR>「その?書庫?はどちらに？<BR>　御自宅から近いようですが」</P>
<P>　マスタングの邸宅方面に向かっているのを察したホークアイが訊ねると、返答は否であった。</P>
<P>「それほど遠くはないが、徒歩では辛いな。<BR>　スラム街が近くてね、軍用車では目立つから私の車に乗り換えて、ついでに私服に着替えてから向かう。<BR>　<BR>　着いたらそこに知り合いの医者を呼ぶ。<BR>　君にはその間少年の日用品を揃えに行ってもらうよ」</P>
<P>「了解しました」<BR><BR>「―――ところで、少年はどうしている？」</P>
<P>「今は眠っています」</P>
<P>　部下の返答で、マスタングは少年を乗車させる時にすでに意識が混濁していた彼の様子を思い起こす。<BR>　<BR>　己の意思とは裏腹に下りてくる瞼を、彼は懸命に開こうとしていた。<BR>　つまるところマスタングに運ばれていた間ずっと、少年は何を伝えてくるでもなく、何度もゆったりとした瞬きを繰り返すのみだったのだ。</P>
<P>「眠っているだけなのか？」</P>
<P>「多少荒いですが呼吸は安定していますし、切迫した状態ではありません。<BR>　ですが、かなり熱が高いようですし早く医師に診せるべきですね。<BR>　<BR>　･･････？」</P>
<P>　少年の頚筋に手を当て、発熱の度合いを確かめたホークアイは非常に馴染み深い、覚えのある紐をそこに見つけた。<BR>　シャツの中に潜ませてあるそれを、少年の眠りを妨げぬよう、そっと引き出す。</P>
<P>　果たして、彼女の予想に違わず現れたのは二枚の金属プレートである。<BR>　自身も持っている認識票と同じ並びで打刻されている文字を読んだホークアイのヘーゼルの眼が大きく開かれた。</P>
<P>「大佐。<BR>　この<RUBY>少年<RT>こども</RT></RUBY>、ハボック少尉の認識票を頚に下げています」</P>
<P>　背後からの報告にマスタングもまた、瞠目する。</P>
<P>　これで確実に、少年がジャン・ハボック少尉と何らかの関わりがあることが証明された。</P>
<P>「･･････面白いな。<BR>　どういうことだ？」</P>
<P>　無意識にステアリングを持ち直したマスタングの声音と表情には、その軽い口調とは裏腹に確かな緊張が見て取れる。<BR>　そして彼が徐々に口角を引き上げていく様を、副官だけがバックミラー越しに見ていた。</P>
<P>　その、危難を目前にした戦場の兵士が浮かべるような、いっそ禍々しいという表現に足る笑みを刷いた焔の顔を。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>リターン／ＡＣＴ．?・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=160" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=160</id><issued>2010-12-02T00:33:00+09:00</issued><modified>2011-08-21T16:19:57Z</modified><created>2010-12-01T15:33:00Z</created><summary>　　&amp;nbsp;　ハモンド派に属する一部の小隊に対し追跡命令が発令された頃、マスタングは執務室で期日を過ぎた未決済の書類と格闘していた。　麗しき鷹の目の凍えた眼光の下で怯えながら、ひたすらサインを書き殴っていたのである。
　ペンを走らせる音と書類を扱う音だけ...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>&nbsp;　ハモンド派に属する一部の小隊に対し追跡命令が発令された頃、マスタングは執務室で期日を過ぎた未決済の書類と格闘していた。<BR>　麗しき鷹の目の凍えた眼光の下で怯えながら、ひたすらサインを書き殴っていたのである。</P>
<P>　ペンを走らせる音と書類を扱う音だけが耳につく一室に、控え目なノックが二回響く。<BR>　ホークアイが応じると、扉を叩いた主が姿を見せた。<BR>　<BR>　ノック一つにも性格が表れるのか、そこには普段から大人しい声音と立ち振る舞いを見せている軍曹が立っていた。</P>
<P>　複数の書類の山が出来ている机の前まで歩み寄ると、びしりと敬礼し『偶然耳にしたんですが』と前口上を述べ、収穫したばかりの情報を伝え始める。<BR>　その前置きは、盗聴されているこの執務室内で、ハモンド側に潜入しているヒューズの部下からの情報であることを暗に示す為のものだ。</P>
<P>「今朝方クレイスター地区で発砲事件がありました。<BR>　撃たれた銃弾は三発、負傷者は居ない模様です。</P>
<P>　現在その事件に関与していると思しき少年が逃走中。<BR>　追跡命令がハモンド大佐より出ています」</P>
<P>「･･････それで？」</P>
<P>　ペンを握る手を休めることなく動かしながら、マスタングは先を促した。</P>
<P>　それだけならば、このような修羅場―――と表現して良いだろう―――に、敢えてフュリーが報告に訪れたりはしない。<BR>　<BR>「事件現場がジャン・ハボック少尉の自宅周辺なんです」</P>
<P>　マスタングの手がぴたりと止まった。<BR>　ペンを置いて机上からフュリーへと視線を移し、片眉を上げつつ続きに耳を傾ける。</P>
<P>「現場検証の最中で結果の詳細は未だですが、どうもハボック少尉の自宅の窓から外に向けて発砲されたようです」</P>
<P>「ふむ。<BR>　逃走中の少年を捕らえればハボック少尉失踪の手掛かりが攫めそうだな」</P>
<P>　マスタングは暫し思案した後、相変わらず一歩引いた処から凛とした揺ぎ無い眼差しを向けてくる副官を仰ぎ見た。</P>
<P>「ハボック少尉が関与している疑いがある事を伝えた上で、第十三小隊に捜索の指示を。<BR>　　<BR>　隊員らが素直に動くかどうか、見物だな」</P>
<P>　それで隊長に対する彼らの認識の程度が判るというもの。<BR>　―――果たして、ホークアイからの指示に?ならず者?と呼ばれる彼らは迅速に従い、行動に纏まりを見せつつ市街地へと散らばって行ったのである。</P>
<P>　小隊の出動が確認されると、マスタングは徐に立ち上がり、黒の外套を手に取った。</P>
<P>「出る」</P>
<P>「どちらへ？」</P>
<P>　ホークアイが鋭い響きを含ませた声で、焔の上官の語尾に重ならぬ際どいところで尋ねる。</P>
<P>「無論、その少年を捜索しに行くのだよ」</P>
<P>　彼の上官の返答には何の遠慮も窺えない。<BR>　机上に<RUBY>堆<RT>うずたか</RT></RUBY>く積まれている書類は相変わらず残っているというのに、鷹の目を前にして胸を張り、憎らしい位に堂々としたものである。<BR>　彼女が無言で与えてくるプレッシャーにも全く動じる様子が無い。</P>
<P>　こうなっている焔は、もう止まらない。<BR>　誰にも止められない。</P>
<P>　はあぁぁ、と重々しい溜息がホークアイの口から零れ出た。</P>
<P>「御供します」</P>
<P>　深く長かった彼女の気持ちの表れに、フュリーは勿論、諸悪の根源であるマスタングまでもが苦笑いを浮かべた。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>　廊下に響く靴音が歩調の速さを示している通り、補佐官を従えたマスタングは急いて歩いている。<BR>　冷静を失うまでには至っていないが、後手に回っている状態を巻き返そうと彼は確かに逸っていた。<BR>　因みに、彼自身がそれを自覚している。</P>
<P>　事件現場であるハボックの住居周辺の地理にはあまり明るくないが、忙しなく歩を進めながら記憶している限りを思い浮かべて少年の逃走経路を予測する。</P>
<P>　軍用車の後部座席に乗り込むと、運転席に身を滑り込ませたホークアイに、予測から導き出した行き先を告げた。<BR>　<BR>　後は急いても意味を為さぬ。<BR>　むしろ、人ひとりを捜し出すには逆効果となりかねない。<BR>　<BR>　それを念頭に置き、マスタングは後部座席に深く身をゆだねる。<BR>　徐々に気が静まっていき、車が走り出す頃には焔の焦燥は完全に治まりを見せていた。</P>
<P>　黒の視線を車窓から外へと向け、流れゆく景色の中に見合った特徴を有した少年を探す。<BR>　<BR>　―――何故、ハモンドが追跡命令を？</P>
<P>　すっかり悠然とした姿勢で事態に臨んでいるマスタングは、報告を受けた時点から抱いていた疑念に意識を寄せた。</P>
<P>　未だ彼の少尉の身に起きた出来事の一端すら知らぬ者には、ハモンドの動向が腑に落ちないのも当然である。<BR>　己の駒でもない者を気にかける必要など彼の大佐には無いのだから。<BR>　<BR>　加えて、そもそもハモンドという男はあからさまに利己的な人物で、他人事だと頼まれても一切手を出さない<RUBY>事勿<RT>ことなか</RT></RUBY>れ主義を頑なに通してきた。<BR>　なのに、何故に今件に限っては対応を常と違えたのか。</P>
<P>　それに、ハボックが関連している可能性があるにも関わらず、こちらへ情報が回されなかった事にも疑念が湧く。<BR>　事件発覚の第一報を司令部に寄越したのがハモンドの腰巾着であるフーカー大尉直属の部下である事も然りだ。　　<BR>　得心のいかぬ事柄が幾らでも浮かんでくるハモンド側の不可解な動向には、何らかの事情があるとしか考えられない。<BR>　そして、それは直接ハボック失踪と繋がる訳ではなかろう。<BR>　彼の失踪時、ハモンド側に動きが無かった事は確認済みである。</P>
<P>　―――そこで、マスタングは強引に思考を中断させた。</P>
<P>「停めろ、中尉！」</P>
<P>　運河に掛かる橋の袂に、三つの人影。<BR>　その内の二つは軍人のもの。<BR>　残る一つは金髪の―――遠目では判りかねるが、おそらく眼の色は青いのだろう―――少年のものだ。<BR>　<BR>　ホークアイもほぼ同時にそれらを視界に捉えており、車は急停止することなく穏やかに進行を止めた。</P>
<P>「予測的中だな」</P>
<P>　車内から降り立ったマスタングの言葉に、同時に降車したホークアイが指摘する。</P>
<P>「未だ件の少年だとは確認出来ていませんが」</P>
<P>「･･････。<BR>　偶には即時に同意してくれないものかね」</P>
<P>「場合に因ります」</P>
<P>　指摘されるような隙があるのが悪いと、つまりはそういう事で。<BR>　要するに『いつも隙があるのだ』と言われたようなものだ。</P>
<P>　眉尻を下げたマスタングの後方で、俄かに少年の切羽詰まった声が上がる。<BR>　そして、あまりに少年の分が悪い小競り合いが始まった。</P>
<P>　焔を取り巻いていた緩んだ空気が一変し、引き締まる。</P>
<P>　彼らを振り返り、騒ぎの元へと歩み出した焔の顔からはもう、部下に遣り込められて浮かべた情けない表情など片鱗も残さず消え失せていた。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・　</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=159" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=159</id><issued>2010-11-14T01:01:00+09:00</issued><modified>2011-06-19T18:13:39Z</modified><created>2010-11-13T16:01:00Z</created><summary>　　　　&amp;nbsp;　人で賑わう市場を通り抜け、運河に掛かる橋に差し掛かった時、ハボックは自身の躰に限界を感じた。　　欄干に手を掛けた途端、膝が崩れて片膝が地面に着いてしまう。　それを止める力すら失われていた。
　呼吸は通常よりも荒くなっており、躰が内側から...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>　<BR>　<BR>&nbsp;　人で賑わう市場を通り抜け、運河に掛かる橋に差し掛かった時、ハボックは自身の躰に限界を感じた。<BR>　<BR>　欄干に手を掛けた途端、膝が崩れて片膝が地面に着いてしまう。<BR>　それを止める力すら失われていた。</P>
<P>　呼吸は通常よりも荒くなっており、躰が内側から燃えるように熱い。<BR>　加えて眩暈も酷くて、視界がぐらぐらと揺れている。</P>
<P>　感覚が鈍くなっているのだろう、膝を地面に打ち付けたのに<RUBY>然<RT>さ</RT></RUBY>して衝撃も痛みも無かった。<BR>　一方で腕の銃創だけは、発熱により朦朧としつつある意識を明瞭に保とうとしているかのように、ぴりぴりとした痛覚をはっきりと伝えてくる。</P>
<P>　･･････何てザマだ。</P>
<P>　今という時に著しく体調を崩している自身に苛立ちながらも、それを糧に立ち上がるまでには至れない。<BR>　脚に力を込めようとしても、ハボックの意志を他でもない彼の躰が裏切るのだ。</P>
<P>「どうした？」</P>
<P>　不意に少し離れた場所から掛けられた声に、ハボックは弾かれたように俯けていた顔を上げる。<BR>　彼の視線が捕らえたのは肩章が無い青の軍服に身を包んだ男二人だった。</P>
<P>「金髪に青い眼･･････！<BR>　おい、この<RUBY>少年<RT>こども</RT></RUBY>じゃないのか？」</P>
<P>　彼らの片割れが声を上げる。<BR>　<BR>　―――手配されている！</P>
<P>　瞬時に悟ったハボックは反射的に立ち上がり、逃げようとした。<BR>　が、躰の反応が鈍っている少年を、軍人である彼らが捕まえられない訳がない。</P>
<P>　一人が背後からハボックの左腕を攫み、もう一人は彼の前に立ち塞がった。</P>
<P>「･･････な、せっ。<BR>　離せよ！」</P>
<P>　ハボックは右腕も攫まんとする下士官の手を打ち払いながら、もう一方の腕を捕らえて離さないその手から自由にするべく、懸命に振り解こうとする。<BR>　<BR>　立ち上がれなかった筈のハボックが見せる激しい拒絶は、敵の手に落ちるかも知れない現況からの脱出が目的ではなかった。<BR>　―――彼自身が、そうと解っていないが。<BR>　<BR>　腕を<RUBY>攫<RT>つか</RT></RUBY>まれ、拘束されている事。<BR>　それが彼を突き動かしている理由に他ならない。</P>
<P>「離せ！」</P>
<P>　その手は枷だった。<BR>　<BR>　ずっと彼を苛んできた、錠付きの鉄輪と同様に。</P>
<P>　この下士官たちはハボックの?敵?ではない。<BR>　表向きの内情しか知らず、目の前の少年が本当は行方不明中の少尉と同一人物であるとは思いも寄らずに、ハモンド大佐から彼らの隊長を通して発された命にただ従って捜索していたに過ぎないのだ。<BR>　<BR>　そうでなければ、彼らがアトリー宅を襲撃してきた者たちの仲間ならば、もっと上手く立ち回れていただろう。<BR>　<BR>　本来そういった事を読み取れないハボックではないが、厭くまで通常の彼であった場合である。<BR>　<BR>　酷い体調不良に因る判断力の低下に加え、追われて手傷を負わされた上に発露した、彼自身が未だ気付いていない<RUBY>精神的外傷<RT>トラウマ</RT></RUBY>。<BR>　<BR>　累積する原因は、彼を半ば恐慌状態に陥れた。</P>
<P>「離―――、せっ！」　<BR>　<BR>　焦れたハボックの自由を保っている右手が、隠し持っていた銃を抜き取った。<BR>　<BR>「こいつ！」</P>
<P>　銃口を向ける前に、立ち塞がるだけだった下士官が咄嗟にその手頚を攫み取り、容赦無く捻り上げる。<BR>　<BR>　痛みで緩んだ右手から銃を取り上げられ、その隙にもう一人から羽交い絞めにされる間際―――、</P>
<P>「待て」</P>
<P>という制止の声が掛かった。</P>
<P>　騒動の最中だというのに、その声は良く通った。<BR>　その場に居る誰もが動きを止め、声の主を見遣る。<BR>　<BR>　ハボックは逃走する絶好の機会を見逃した。<BR>　<BR>　その必要が無くなったのだ。<BR>　　<BR>「マスタング、大佐･･････」</P>
<P>　喜びより驚愕の色が濃い少年の呟きに、当のマスタングは不思議そうに小首を傾げ、その後に顎に手をやりつつ癖の有る右上がりの笑みを浮かべた。</P>
<P>「子供にまで顔が知られているのか。<BR>　どうやら私はかなり有名になっているらしい。<BR>　<BR>　なぁ、中尉？」</P>
<P>　話を振られた補佐官は焔の上官の自慢気な様子に対し、あからさまに肩で息を吐いた。</P>
<P>「･･････悪名でなければ良いですが」</P>
<P>　ホークアイの毒舌を軽く笑って流すと、マスタングは敬礼している下士官の二人にそれを返した。<BR>　そして、我に返ると再び彼らの拘束から逃れようと躍起になり始めた少年の真前に立つ。<BR>　<BR>「手を離してやれ」</P>
<P>　所謂ハモンド派の末端である彼らは、マスタングからの命令に少しばかり途惑いがちではあったが、大人しく従った。<BR>　双方からそれぞれに攫まれていた両腕を漸く解放され、気を落ち着けたハボックが安堵の溜息を洩らす。<BR>　<BR>　彼が立てていた予定とは違ったが、焔の大佐に助力を請う、という関門を突破できる事に相異ない。<BR>　しかしながら、その要請が受け入れられるか否かは未だ定かでなかった。</P>
<P>　相変わらず予断を許さぬ状況に在るにも関わらず安心してしまったのは、彼の判断力低下を如実に表しているところか。</P>
<P>「―――！」</P>
<P>　張りつめていた糸が断ち切れる様に、突然崩れ落ちた少年の躰を、咄嗟にマスタングが受け止める。</P>
<P>「す･･････ま･･････せん」</P>
<P>　忙しない呼吸の合間に切れ切れの謝罪を述べた少年の、服越しでも明らかに判るほど高過ぎる体温に、マスタングは顔を顰めた。<BR>　意識が朦朧としている様子の少年を抱き上げ、踵を返す。<BR>　<BR>　一歩を踏み出したところで足を止め、背後に残る二人を振り返った。</P>
<P>「ここでの事は一切忘れて?発砲現場から逃走した少年?の捜索を続けたまえ。<BR>　君たちはそれらしい少年を見つけていなし、私にも会っていない。</P>
<P>　―――いいな？<BR>　これは命令だ」</P>
<P>　下士官らが返したのは、短い応答と敬礼。</P>
<P>　所詮、派閥意識は末端になるほど薄い。<BR>　彼らにとってより重要なのは、目の前の佐官から直接与えられた命令の方であった。</P>
<P>　少年から取り上げた銃を中尉に渡し、上官たちの去り行く後姿が見えなくなると、彼らは与えられた命を全うすべく、結果の判りきった捜索を再開させた。<BR><BR><BR><BR><BR><BR>　<A href="http://havoc2.jugem.jp/?cid=47" target=_self>→ＡＣＴ．?<BR><BR></A><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=158" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=158</id><issued>2010-10-11T00:20:00+09:00</issued><modified>2010-10-10T15:29:15Z</modified><created>2010-10-10T15:20:00Z</created><summary>　　　　イースト・グリーン公園パークは、緑が少ないイーストシティ内の住人に癒しを与える目的で造られた緑地である。
　東方司令部と同等程度の広さで、煉瓦で整備された遊歩道を進むと中心部に位置する池に辿り着く。　池には鯉を始めとした数々の淡水魚類が棲み、鳥...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>　　イースト・グリーン<RUBY>公園<RT>パーク</RT></RUBY>は、緑が少ないイーストシティ内の住人に癒しを与える目的で造られた緑地である。</P>
<P>　東方司令部と同等程度の広さで、煉瓦で整備された遊歩道を進むと中心部に位置する池に辿り着く。<BR>　池には鯉を始めとした数々の淡水魚類が棲み、鳥や虫の姿も多く見られ、訪れた人々の目を楽しませてくれる。<BR>　その周辺には茂みが点在し、それに隠される様にして地下水道とを結ぶ穴が一箇所だけ存在している事を知る者はそう居ない。</P>
<P>　ハボックはその穴から這い出し、ほんのり温かい朝陽とひんやりした空気を肌に浴びると、小さく身震いした。</P>
<P>　今は肌寒い季節で、躰を動かし続けていたとはいえ音が響かぬように歩いての移動は、結構な時間を冷たく湿った地下道で過ごした身を冷やした。<BR>　加えて、ハボックが着用しているのは室内着一枚であり羽織る物が無い状態なので、明らかに外に居るにしては薄着である。<BR>　もう躰は芯から冷えていた。</P>
<P>　立ち上がった彼は久方ぶりの外界に感慨を覚える暇も無く、自身が住まうアパートメントに向かって走り出した。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>　公園を後にして四十分ほど経った頃だ。<BR>　約一月ぶりの住居は、少しの懐かしさを伴ってハボックを迎え入れてくれた。</P>
<P>　アパートメントの玄関口に有るメールポストから、郵便物に装った茶封筒を取り出す。<BR>　その中から掌の上に転がり出たのは部屋の合鍵である。<BR>　銀色のそれを手に、ハボックは慎重に他の気配を探りながら三階へと階段を上った。</P>
<P>　この建物の住人はその殆どが一人で住んでいる。<BR>　その為、今時分は大抵が働きに出ているので静かなもので、御蔭で気配も読み取り易い。</P>
<P>　どうやら要らない出迎えは無いようだ。</P>
<P>　ハボックは鍵を用いて自室の扉を開けた。<BR>　視覚と嗅覚が、ずっと焦がれてきた場所に漸く辿り着いたことを彼に知らせる。</P>
<P>　扉を閉めて後ろ手に錠を掛けると同時に、彼の意思に反して緊張が解けていく。<BR>　それに倣い、ハボックの躰は扉を背に凭れると、そのまま緩やかにずり落ちて床に腰を下ろしてしまった。</P>
<P>　熱く浅い呼吸を頻繁に繰り返す喉が痛みを訴え、水分を欲している。<BR>　明らかに異常を来たしている躰は鉛のように重い。</P>
<P>　肌寒い季節だというのに室内着だけで地下水道を長い時間練り歩き、先程まで朝の冷えた空気の中に躰を晒していたのだ。<BR>　まして、一月にも及ぶ監禁生活で心身ともに衰えているのは否めない。<BR>　体調が悪くなっても不思議ではなかった。<BR>　<BR>　しかしその事実に甘え、もたつく時間的余裕など彼に与えられている筈もない。　<BR>　<BR>　緊張の糸を再び張り巡らせ、ハボックは立てた膝を支えにして立ち上がった。</P>
<P>　戸棚に仕舞ってある現金を持ち出し、クロゼットから引き摺り出したヒップバッグに詰める。<BR>　続いて、ベッドサイドテーブルの小さな引き出しから一丁の銃と弾入りの箱を取り、箱の方だけバッグに入れた。<BR>　<BR>　ベルトを調節しても腰に下げるには躰の厚みが足りず、バッグは斜め掛けにして背に負う。<BR>　残る拳銃は<RUBY>服<RT>ズボン</RT></RUBY>のウエストに挿せばシャツで覆われて隠れた。</P>
<P>　出て行く前に周辺の様子を窺おうと窓に近付いた時だった。</P>
<P>　軍用車が停車するブレーキ音が響く。<BR>　―――ここ一帯は複雑に入り組んだ狭い道路が多く、一般車が横行するだけで珍しいというのに。</P>
<P>　ハボックは窓際に張り付き、運転席と助手席から昨晩に見かけた男達の内の二人がそれぞれ下り立ち、この建物に入るのを確認する。<BR>　と、同時に迷わず窓を開け放ち、その窓枠に足を掛けた。</P>
<P>　沿うようにして建つ隣家の屋根に飛び移る。<BR>　更に、そこから隣接する建物の非常階段へと渡った瞬間、数発の軽い発砲音と共に背後から銃撃がハボックを襲った。</P>
<P>　応戦しても状況を悪化させるだけなのは明白である。<BR>　<BR>　舌打ちしたハボックは、振り返らずに螺旋状の手摺を滑り下り、逃げることに専念する。<BR>　地面に降り立つと、すぐさま彼らが乗って来た車体の向きと逆方向に走り出した。</P>
<P>　ちりちりと痛む左上腕には目もくれず、気を抜けばすぐにでも縺れてしまいそうな脚を叱咤しながら疾走するハボックの姿は、男達が外に出た時にはもう既に、その周囲から完全に見えなくなっていた。　<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=157" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=157</id><issued>2010-10-03T23:37:00+09:00</issued><modified>2011-08-21T16:16:21Z</modified><created>2010-10-03T14:37:00Z</created><summary>　地下水道でハボックは一人、追っ手の気配を探り他の足音に耳を欹てつつ静かに歩を進めている。　走れば否応無しに反響してしまう。　だから急く心とは裏腹に、慎重に足を運んでいた。
　周囲へ注意を払いながら、意識の中心から少しずれた部分でハボックは考えを巡らせ...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P><BR><BR>　地下水道でハボックは一人、追っ手の気配を探り他の足音に耳を欹てつつ静かに歩を進めている。<BR>　走れば否応無しに反響してしまう。<BR>　だから急く心とは裏腹に、慎重に足を運んでいた。</P>
<P>　周囲へ注意を払いながら、意識の中心から少しずれた部分でハボックは考えを巡らせる。<BR>　<BR>　何故、アトリーはこのような処へ続く抜け道など造っていたのだろうか。<BR>　　<BR>　そして?No.39?という呼称。<BR>　ハボックより前に存在する―――もしくは、した―――三十八もの被検体が全て人間だとしたら、それだけ多くの人体実験を彼は繰り返していたというのか。</P>
<P>　疑問や謎は次々と幾らでも浮かんでくる。<BR>　だが、明解な答えを与えられるアトリーは今、ここに居ない。<BR>　知りたくば彼を救け出さねばならないのだ。<BR>　<BR>　ハボックは軽く頭を振り、これからの事へと思考を切り替えた。</P>
<P>　孤立無援の状態ではどうしようもない。<BR>　まずは助力を得たい。<BR>　―――では、誰に助けを請う？</P>
<P>　すぐさまハボックの脳裏を過ぎったのは、今まで大して深く関わりを持ってこなかった人物だった。</P>
<P>　ロイ・マスタング大佐。<BR>　焔の二つ名を掲げる国家錬金術師にして、現在東方司令部で副司令官を務める男。</P>
<P>　フーカーに指示した者―――それが可能な者で思い付くのは彼の上官であるハモンド大佐だ。<BR>　たとえハモンドではなく、軍と関わりの無い全く別の人間が後ろに控えているのだとしても、何らかの強い?力?を有する者には違いないだろう。</P>
<P>　それに対抗し得る人物でなければならない。<BR>　･･････しかし。</P>
<P>　ハボックは自分の両手を眺めた。<BR>　<BR>　未だ幼さを残す手。<BR>　明らかに、子供のそれ。</P>
<P>　こんな姿では助力を要請しても受け入れてもらえるかどうかどうか。<BR>　大体、司令部にはフーカーも居るのだから、彼の目に止まらずマスタングの元まで行き着ける保障は無い。<BR>　<BR>　厳しい状況に思わず溜息が零れた。<BR>　挫けそうになる心を、ハボックは自分の手から視点をはずし前方へと向けることで立て直す。　</P>
<P>　自身とマスタングの間に誰か代理を立てるにしても、結局は今の姿を晒して話をつけるか、もしくは姿を見せなくても話を通せるような相手ではないといけない。</P>
<P>「･･････レッドに･･････」</P>
<P>　囁き声に近い呟きでハボックの口をついて出てきたのは、ハボックが懇意にしている情報屋の通称である。<BR>　<BR>　彼が率いる第十三小隊は他より数少ない任務の内、危険な現場に宛がわれる率が非常に高く、その地域の詳細な知識だけでなく裏側の情報なども必要とした。<BR>　その為、情報屋の存在をかねてから重宝してきたのである。</P>
<P>　件の情報屋は金さえ出せば依頼者が誰であろうが動くし、一度受けた仕事は最後まで遣り遂げる事に高いプライドを持っているから裏切らないと信じられる男だ。</P>
<P>　既に?ジャン・ハボック?の名は依頼者として、彼の信用を得ている。<BR>　一度こちらから連絡を取れば彼とすぐに直接会えるのが、その証だ。</P>
<P>　常と同じ接触方法を取れば、呼び出すことは可能なのだ。<BR>　たとえ遣いとして現れるのが少年でも、そう難しい仕事内容ではないし、前払いにしておけば確実に依頼を受けるだろう。</P>
<P>　金が要る。<BR>　これから身を隠すにしても、何をするにも現金が必要になってくる。<BR>　幸い、自宅に銀行から下ろしたばかりの一ヶ月分の生活費があるから、それを取りに行けば良いのだ。<BR>　<BR>　ただ、待ち伏せされている危険性がある。</P>
<P>　逃亡した以上、あの集団がアトリーから情報を得ようとする可能性は高い。<BR>　更に、少なくとも一人は現役軍人である。<BR>　アトリーが仮にハボックの素性を隠そうとしても、自白を強要されたら一溜まりもないだろう。</P>
<P>　少年の姿ではどうにも出来ないだろうと、彼らが高を括っていることを祈るしかない。<BR>　　　<BR>　この軍事国家アメストリスで、軍人の手から一人の人間を救出することが目的である?ただの少年?に与えられた選択権は余りにも少なく、また、ハボックには他に取るべき行動が何も思い付けなかった。</P>
<P>　―――とにかく、行くしか無ぇよな。　</P>
<P>　固く閉ざしていた口元をいっそう引き締めて、ハボックは先を急いだ。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR></P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=156" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=156</id><issued>2010-09-04T00:57:00+09:00</issued><modified>2010-09-05T13:36:42Z</modified><created>2010-09-03T15:57:00Z</created><summary>　　　扉越しでも察知できる大きな音と共に、ハボックの転機は唐突に訪れた。　　常に無かった多勢の不穏な気配が迅速に近付いて来る。　ハボックは警戒の糸を張り巡らせながら、入室した際に死角となる場所に立った。　　足枷の鎖がある以上、逃げ隠れは出来ない。　それ...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>　扉越しでも察知できる大きな音と共に、ハボックの転機は唐突に訪れた。<BR>　<BR>　常に無かった多勢の不穏な気配が迅速に近付いて来る。<BR>　ハボックは警戒の糸を張り巡らせながら、入室した際に死角となる場所に立った。<BR>　<BR>　足枷の鎖がある以上、逃げ隠れは出来ない。<BR>　それに、そもそも今の自分がただの無力な少年であることも、ハボックは重々承知している。<BR>　出来る事といえば、侵入と同時に撃たれることを避ける程度だろう。<BR>　<BR>　相応の覚悟をし、ハボックはすぐ傍らにあるこの部屋唯一の扉が開かれる瞬間を待ち構えた。</P>
<P>&nbsp;</P>
<P>　壁の両側に二人ずつ並び立ち、入り口にはアトリーと彼の背に銃口を当てた男が一人。<BR>　その他の正確な数字は判りかねる複数の気配は、家中の至る場所で何やら物色している様子である。</P>
<P>　そしてハボックは、三方から囲まれるようにして監禁部屋の中央に立っていた。</P>
<P>「こいつが御執心のNo.39か」</P>
<P>　銃をアトリーに突きつけている男がその体勢のまま、視点をハボックに置きつつ間近まで寄りながら言った。<BR>　<BR>　ハボックは努めて表情を抑える。<BR>　無表情を保つ彼の胸中は、実は驚きで半分が占められていた。<BR>　壁際に立つ男達には全く見覚えが無いが、銃をアトリーに突きつけているその男は見知った顔だったからだ。</P>
<P>　フーカー大尉。<BR>　東方司令部に籍を置く、マスタング大佐と反目しているハモンド大佐の右腕と称されている人物である。</P>
<P>「こいつは何処の誰だ、名は？」</P>
<P>　フーカーからの問いにアトリーは無視して答えず、真正面に立つハボックを何か言いたげに見つめた。<BR>　その合間に忙しなく泳ぐ視線は、今の状況から脱却する術を探しているようにも、どうすることも出来ず右往左往している心を表しているようにも見える。</P>
<P>「研究資料の場所を吐いた時の様に素直なのが身の為だ。<BR>　―――さあ、答えろ」</P>
<P>　銃口で背を突かれながらもアトリーは固く口を噤み、決して応じなかった。<BR>　二度目の沈黙の返答に腹を立てたフーカーが、銃の<RUBY>握り手<RT>グリップ</RT></RUBY>でアトリーの頭を殴りつけ、その為にバランスを崩し膝をついた彼の腹を更に蹴ろうとする。<BR>　そこに割り込んで、ハボックが制止の声を上げた。</P>
<P>「研究が目的なんだろ。<BR>　協力させようってんなら、下手に傷付けるのは拙いんじゃねぇか？」</P>
<P>　?No.39?は一般人だと勝手に決め込んでいたフーカーは、目の前に居る少年が元は成人男性であろうと、現況に内心では震え上がっているだろうと思っていた。<BR>　故に、こうして口出してくる度胸があったことに目を瞠り、些少驚きを見せた。</P>
<P>「この状況で口出しできるとは、なかなかどうして。<BR>　その度胸は褒めてやっても良いが、自分を監禁した人間を庇うのは如何なものかな？」</P>
<P>　フーカーは空いている方の手で顎を撫でながら小馬鹿にした口調で言うと、何やら思いついたらしく二度ゆっくりと首肯する。<BR>　―――それが碌でもないことだと誰にでも判る、いやらしい嘲笑を浮かべて。</P>
<P>「居心地が良くて情でも移ったか？」</P>
<P>　頭部に与えられた暴行の所為でふらついて立てない様子のアトリーへ向けて銃口を下ろすと、顔を突き出してハボックの耳に顔を近付けてくる。</P>
<P>「さぞかし、この男との房事は快かったとみえるな」</P>
<P>　ハボックは間髪を入れず、あからさまに揶揄してきたフーカーに向かって唾を吐いた。<BR>　刹那にその報復として頬を薙ぎ払われ、彼の躰は激しく音を立てて横倒しになる。</P>
<P>　ラグが敷いてあるとはいえ、強い衝撃がぶつけた箇所を中心にして広範囲に拡がった。<BR>　が、すぐさま何ら影響を受けていないかの様に起き上がり、立ち上がる。</P>
<P>　低劣な事を言う者に見せても構わない弱々しい姿など持ち合わせていない。<BR>　<BR>　ハボックは口の端が切れて流れ出た血をぐい、と肩口で拭うと、臆する事無く真正面から<RUBY>睥睨<RT>へいげい</RT></RUBY>した。<BR>　フーカーに胸倉を掴み上げられ、更にその眼光をきつくする。</P>
<P>「被検体もそのまま持ち帰れという命令を受けているがな、死なせた言い訳など幾らでもあるぞ」</P>
<P>　そのような脅しにも屈服などしない。<BR>　碧眼の視線は真っ直ぐに相手を捉えて睨み付け、一瞬の揺らぎも見せなかった。</P>
<P>「･･････ふん、まぁ良い」</P>
<P>　?No.39?の素性調査は与えられた命に含まれていないのだから、これ以上は時間の無駄である。<BR>　そう決したフーカーは姿ばかりが少年の胸倉を攫む手を離し、踵を返した。</P>
<P>　側頭部を強打されたことで軽度の脳震盪を起こしていたらしいアトリーが漸く眩暈から解放され、のろのろと立ち上がる。　</P>
<P>「精々、残り僅かな二人きりの時間でも満喫しておくんだな」</P>
<P>　アトリーに向かって捨て台詞を吐き、フーカーは同席していた者たち四人全員を引き連れて部屋を出て行った。<BR>　扉が閉まり、外から錠が掛けられた音が静かになった室内に響く。</P>
<P>　複数の足音が遠のいたが、扉の向こうで話し声が微かに聞こえている。<BR>　どうやら、見張り番として二人が残されたようだ。</P>
<P>　アトリーは徐に、傍らに立つハボックの足元に跪いた。<BR>　彼に問う間合いを与えず、ジャケットの内ポケットから平らで小さな鍵を取り出すと、それを彼の足枷の鍵穴に差し込んで捻る。<BR>　<BR>　かちり、という開錠音と共に、彼をこの一ヶ月もの間、この部屋に縛り付けてきた枷は外された。<BR>　―――だが、喜んでいる暇は無い。</P>
<P>「逃げろ」</P>
<P>　抑えた声音で一言そう告げると、アトリーはラグを端から捲り上げる。<BR>　現れた床には造りつけの戸蓋があり、それを収納されていた取っ手で持ち上げて開くと、暗闇に沈む深い穴がぽっかりと口を開けていた。</P>
<P>「イーストシティ全域に広がっている地下水道に繋いである。<BR>　<BR>　梯子を下ったら、それを背にして左に進め。<BR>　道なりに行けば二股か三股に分かれていることもあるが、その時は全て左に。<BR>　分岐点を五つ越えた後、最初の梯子を上がればディール地区のイースト・グリーン<ruby>公園<rt>パーク</ruby>に出られる。<BR>　<BR>　さぁ、早く行け」</P>
<P>　アトリーの促す言葉に従わず、ハボックは声を低くして訊いた。</P>
<P>「おまえは？」</P>
<P>　共に行くならば地下道の説明など不要な筈だ。<BR>　なのに、こうして順路を教えるという事は―――。</P>
<P>「俺は残る。<BR>　二人で行くより、ほんの少しでも追っ手が掛かるまでの時間が稼げるだろう」</P>
<P>「そんなもん、大して時間稼ぎになんかならねぇよ。<BR>　<BR>　―――行くぞ。<BR>　･･････一緒に」</P>
<P>　赦している訳ではない。<BR>　けれど、だからといってアトリーをこの場に残して一人で逃げる事などハボックには出来ないのだ。</P>
<P>　視線をこちらから外したまま、それでも共に行こうと告げてきた彼を見るアトリーの表情が、一瞬だけ複雑に酷く歪む。<BR>　目を閉じて深く息を吐き顔を上げた時には、決意に彩られたものに変わっていた。<BR>　<BR>「先に行け。<BR>　今のおまえじゃ、これを支えながら降りられないだろう」</P>
<P>　手を離せば、蓋はそれ自身の重みで外に気付かれる位に大きな音を立てて閉まってしまう。</P>
<P>　今の自分がどれだけ非力であるかを承知しているハボックに否を言える権利は無かった。</P>
<P>　軽く頷き、梯子に足を掛け、手を掛ける。<BR>　素早く且つ慎重に降りていくハボックの金髪が穴の中へ完全に飲み込まれていく。</P>
<P>「悪かった」</P>
<P>　不意に頭上から謝罪の言葉が落とされ、弾かれたようにハボックは声の主を見上げる。<BR>　閉じていく蓋から垣間見たアトリーは、深い悔恨の色を滲ませた笑みを浮かべていた。<BR>　<BR>「っ、ダレ―――」</P>
<P>「行け！」</P>
<P>　ハボックの呼び掛けはアトリーの一言に遮られ、蓋は完全に閉ざされた。<BR>　直後、閉まった後の僅かな隙間から洩れる光さえ消え、再びラグが被さったと判る。</P>
<P>　梯子を攫んでいたハボックの両の手の片方が拳となり、側壁に激しく打ち付けられた。<BR>　まるで彼の口惜しさを表しているかのような固く鈍い音がする。</P>
<P>「―――くそっ」</P>
<P>　アトリーの決断を無駄にしない為にも、最早ハボックに進む以外の道など無かった。<BR>　<BR>　強く噛み締めた唇を解き、ハボックは残る梯子を降り始めた。</P>
<P>　必ず、救ける。</P>
<P>　その誓いを胸にして。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>　<BR>　<BR>&nbsp;</P>]]></content></entry><entry><title>・ｓｃｅｎｅ　?・</title><link rel="alternate" type="text/html" href="http://havoc2.jugem.jp/?eid=155" /><id>http://havoc2.jugem.jp/?eid=155</id><issued>2010-08-18T23:28:00+09:00</issued><modified>2011-08-21T16:12:07Z</modified><created>2010-08-18T14:28:00Z</created><summary>　　　痛みを知った。　幼くなった躰の奥に刻まれ教え込まれたその痛みを、ハボックはこれから先、忘れることなど無いだろう。
　躰だけではなく心までも辛苦で侵される行為に慣れてきている自分自身を彼は嫌悪せずにはいられない。　そして何より、悦楽に蝕まれる一時が...</summary><author><name>ヨコシマミエコ</name></author><dc:subject>リターン／ACT.?</dc:subject><content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="ja"><![CDATA[<P>　<BR>　<BR>　痛みを知った。<BR>　幼くなった躰の奥に刻まれ教え込まれたその痛みを、ハボックはこれから先、忘れることなど無いだろう。</P>
<P>　躰だけではなく心までも辛苦で侵される行為に慣れてきている自分自身を彼は嫌悪せずにはいられない。<BR>　そして何より、悦楽に蝕まれる一時があるという事実がいつも彼を苛むのだ。</P>
<P>　ぎし、と小さく音を立てて、傍らに寝そべっていた男が一旦ベッドから離れる気配がした。<BR>　間もなくバスルームから水の音が聞こえ始め、彼がシャワーを浴びているのだと判る。<BR>　やがて水音が止み、物音や衣擦れの音が聞こえてきた。<BR>　それからまたベッドが軋む音がして、今度は彼がベッドの縁に腰掛けたのだろう、とハボックは何となく悟る。</P>
<P>　続いて、仰向けに横たわるハボックの顔の側に置かれた手らしき気配。<BR>　それが、持ち主である男の体重が掛かった事でベッドシーツに沈むのを気取る。</P>
<P>　著しい疲労に脱力し、今を否定しているかのように瞼を下ろしたままのハボックの口唇に、冷たい硝子の小瓶の口が当てられた。<BR>　咄嗟に手で弾き飛ばそうとしたが、行為の際にはベッドに縛り付けるべく両手も拘束されており、動かそうとした右手頚の方が鉄輪で擦られて痛むだけだった。</P>
<P>　せめてもの抵抗に口を閉ざすが、両頬を片手で&#25681;まれて開口を余儀なくされる。<BR>　直後、口内に広がった甘味は覚えのあるもの。<BR>　<BR>　これを何故ゆえに今、飲ませなければならないのか。</P>
<P>　その理由を考えつつ、過去に経験した躰の芯から襲う激痛の訪れを予想しながら、ハボックは致し方なくその液体を嚥下する。<BR>　些少咽たが吐き出すまでには至らず、とろみを帯びた水分が喉を通る感触がした。</P>
<P>　これから身に起きるだろう痛みに、自然と躰は強張る。</P>
<P>「大丈夫だ、以前の様に躰が痛んだりはしない」</P>
<P>　口端から僅かに溢れ出てしまった薬を親指で拭い取ってやりながら、囁くようにアトリーが告げた。<BR>　<BR>　彼の言葉に安堵と疑問が浮かぶ。<BR>　喋る気には未だなれず、ハボックは目を開けて無言で問う視線だけを送った。<BR>　<BR>　自ら相手に送っておきながら、その視線の意味を察してほしいとは全く思っていない。<BR>　むしろ解って欲しくなかった。<BR>　―――もう友人ではない、<RUBY>唾棄<RT>だき</RT></RUBY>すべき男などに。<BR>　<BR>　果たして、アトリーから答を与えようとする素振りは見受けられなかった。<BR>　が、それはハボックのささやかな願い通りに、視線に含まれた問いに彼が気付けなかった訳ではない。</P>
<P>　前回と違い躰が痛まないのは、今回の薬の投与が若返りした体躯をそのままに保つことだけが目的だからである。<BR>　あの激痛の原因は急激な骨格等の変化に因るもので、それが起こらない以上、痛むことはないのだ。</P>
<P>　それを知らせたら、薬を飲まなければいずれ元の躰に戻れるのだと、ハボックが気付いてしまう。<BR>　彼に確実たる希望を与えてしまう。</P>
<P>　だからアトリーは彼の無言の問いに答えるわけにはいかなかった。<BR>　それだけの理由である。</P>
<P>「何か要望は有るか？」</P>
<P>　アトリーが訊いた。</P>
<P>　これまでに幾度も、同じことを問い掛けられている。<BR>　その度に返すハボックの希みも、いつも同じだ。<BR>　<BR>「躰を元に戻せ。<BR>　解放しろ」</P>
<P>「･･････もう一月にもなるのに、毎回それを言うんだな」</P>
<P>　アトリーの声音が不満気に低くなる。<BR>　相手の機嫌を取るつもりなどさらさらないハボックは、そんなことなど御構い無しだ。</P>
<P>「こんな遊び、そろそろ飽きただろ」</P>
<P>　嘲りを充分に含ませて吐き捨てる様に言うと、アトリーは驚いた様子で二、三度目を瞬かせた。</P>
<P>「飽きる？<BR>　とんでもない」</P>
<P>　十数年続く片恋。<BR>　<BR>　もう忘れよう、と決心した。<BR>　何度も、何度も。<BR>　<BR>　けれど、そうして自分で選んだ恋人を作っても、心のベクトルの指し示す先が逸れてそちらへと向いているのは僅かな間で、結局は脳裏に焼きついている金と蒼に戻ってしまい、別れて終わった。</P>
<P>　無駄な足掻きは止めようかと腹を括った頃、彼が東方司令部に―――自分が住むイーストシティにやって来たのは、神の啓示としか思えない。</P>
<P>　彼を手に入れろ、と。</P>
<P>　アトリーは改めて目の前に居る恋焦がれた人を見下ろした。</P>
<P>　拘束具に阻まれている部分まで中途半端に衣服が脱がされ、空気が触れている肌の上には事後の乱れた痕跡が生々しく残っている。<BR>　全体的に生温い気配を漂わせている、彼という人の躰を構成する全ての中で、碧眼だけが<RUBY>清冽<RT>せいれつ</RT></RUBY>を感じさせた。<BR>　<BR>　目を逸らさずに、じっと見つめてくる双眸が煩わしい。<BR>　確かにそう思っているのに、同時に視線を交わし続けていたいと希むほどに愛おしくもある。</P>
<P>　気分の高揚に誘われて、滑らかな輪郭を描く頬に触れようとアトリーは手を伸ばした。<BR>　すると顔を背けて避けられ、居所を見失った彼の手は、咄嗟に腹立ちを込めて憎らしい頬を叩く。</P>
<P>「･･････何で俺のものにならない」</P>
<P>　アトリーの口をついて出てきた呟きは、おそらく独り言だ。<BR>　問い掛けられているのではないと気付きながら、彼の手前勝手な言い分に憤りが噴き出し、ハボックは睨み付けながら言い返さずにいられない。　<BR>　<BR>　足枷と錠で一室に閉じ込め、手枷を加えては蹂躙する。<BR>　そんな風にこの一月、生活の全てをこの男だけの都合で動かされてきたというのに、その当人が何をほざくのか。</P>
<P>「もう散々好きにしてるじゃねぇか」</P>
<P>「違う！」</P>
<P>　声を荒げ、相手の語尾に重なるようにして否定の言葉が紡がれた。</P>
<P>　肝心なのは、心。<BR>　己が彼を想う様に彼から想われなければ、真の意味で彼を手に入れたことにはならない。</P>
<P>「おまえが欲しい･･････！<BR>　おまえの心を寄越せよ！」</P>
<P>「そんなもん、こんな方法で手に入るわけ―――っ」</P>
<P>　皆まで言い終わらぬ内に、アトリーの手が再度ハボックの頬を張った。</P>
<P>「黙れっ！」</P>
<P>　怒鳴って立ち上がったアトリーの激昂を、ハボックは冷静に受け流した。</P>
<P>　昔の彼と違い気が短く、逆鱗の境目が良く解らない。<BR>　記憶の中にいる大人びていて落ち着いていた彼はもう、過去のものなのだと考えざるを得ない。</P>
<P>　会わぬ間に変わってしまったのか。<BR>　それとも、元々こんな風に激しい性格をしていたのを逆に装っていたのだろうか。</P>
<P>　どちらにせよ、彼を怒らせれば手酷い仕返しが待っている。<BR>　これまでにも図らずも逆鱗に触れてしまった事はあり、もう数度経験済みだ。</P>
<P>　既に今日も痛めつけられた矜持を、更に傷つけられる行いがこれから為されるのを覚悟して、ハボックは目を閉じた。<BR>　―――せめて、映像として自身の記憶に残さぬ為に。</P>
<P>　視界を閉ざして作り出した暗闇の中、針が腕をちくりと刺す痛みを認識した。<BR>　予測していたものとは全く異質の痛覚の訪れに、瞼を持ち上げる。</P>
<P>　空の注射器を銀のトレイに乗せるアトリーの姿が視界に入った。<BR>　彼の目付きは平静さを取り戻しており、雰囲気も落ち着いている。<BR>　<BR>　ハボックが初めて見せた従順とも言える態度が、幼児の様な癇癪を起こした愚かをアトリーに気付かせ、平常心を取り戻させたのだった。</P>
<P>「それでも･･････おまえを傷付けたいわけじゃない」</P>
<P>　それきりアトリーは口を閉ざした。<BR>　ハボックもまた彼に返すべき言葉も無ければ、そうしたい言葉も無く黙っていた。</P>
<P>　息苦しい沈黙の中、やがて注射された入眠剤によって強制的にハボックが深い眠りに就いた。<BR>　それを確認後、枷を全部外し、彼を抱き上げてバスルームへ向かいながらアトリーの脳裏に響いていたのは先刻の遣り取りだ。</P>
<P>　こんな方法で人の心を手に入れる事はできない。<BR>　まして、彼の様に<RUBY>剛<RT>つよ</RT></RUBY>い心の持ち主ならば、なおさら。</P>
<P>　そんな事は、解っている。<BR>　初めから知っていた筈なのに。<BR>　<BR>　どうして。<BR>　･･････けれど。　</P>
<P>　自問自答を繰り返すアトリーの視線が、ふと無意識に鏡へ焦点を合わせた。<BR>　それに映し出されている自分と、自分の腕が抱えている存在を目にした時、彼は瞠目し足を止めた。</P>
<P>　男と少年―――大人と子供だ。</P>
<P>　最初から承知していた事実なのに、初めてそれを目の当たりにして、アトリーは愕然とした。<BR>　<BR>　違う。<BR>　違う、違う、違う。<BR>　<BR>　ハボックだけを過去の姿に戻したのは故意だ。<BR>　自分まで子供に戻ってしまったら、研究所を利用する事が出来なくなるし、それからの生活が余りにも不便な事態になってしまうから。</P>
<P>　彼が<RUBY>少年<RT>こども</RT></RUBY>なのに、己は大人である。<BR>　たった<RUBY>一歳<RT>ひとつ</RT></RUBY>の違いしかない二人には有り得ない、不自然。<BR>　<BR>　今の今までそれを当然だと理解してきた筈だが、二人の姿を並べて見たことでアトリーの内に突如として、互いの姿に見る年齢の違いに対する違和感が湧き上がってきた。<BR><BR>　不意に、呆然と立ち尽くすアトリーの腕の中でハボックが僅かに身動いだ。<BR>　それで我に返ったアトリーはバスルーム内へと歩を進める。</P>
<P>　眠るハボックの躰を清めているアトリーの手付きは普段とまるで変わらず、すっかり衝撃から立ち直っているかのように見える。<BR>　<BR>　だがこの時から、彼の感情に巣食っていた狂った熱は徐々に冷め始めていた。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>&nbsp;</P>]]></content></entry></feed>
